喜多方ラーメン坂内が挑む「世界トップ10」への道
「日本の外食産業はメジャーリーグ。自信を持って外に出ていけば、世界で十分に戦える」
そう力強く語るのは、「喜多方ラーメン坂内」を国内外で展開する株式会社麺食(めんしょく)の代表取締役社長、中原誠氏だ。 同社は現在、国内外で約80店舗を展開し、グループ連結売上高は約68億円にのぼる。国内での安定した基盤を持ちながら、アメリカやドイツなど海外への出店を加速させ、さらにはネパールからのインターンシップ制度など、独自のグローバル人材戦略を推進している。
今回は、直営店舗ゼロからスタートしたという数奇な創業秘話から、異色の経歴を持つ2代目社長が描く「時価総額世界トップ10」へのビジョンまで、株式会社麺食の中原誠社長に話を伺った。
インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)
■直営店ゼロ、マニュアルなし。異例のフランチャイズ第1号
(喜多方ラーメン坂内店舗外観)
喜多方ラーメン坂内を展開する株式会社麺食の歴史は、非常に特異なスタートを切っている。1988年の会社設立時、直営店は「ゼロ」であったという。
「私の父が国鉄(現JR)の子会社で飲食を運営する役員をしていました。そこでラーメン事業に進出することになり、父が日本中を食べ歩いて喜多方ラーメンに出会い、新橋にお店を作ったのが始まりです。これが大ヒットしてチェーン展開しようとしたのですが、ちょうど国鉄がJRに変わる大再編のタイミングで、新規事業どころではなくなってしまったんです」
しかし、その繁盛ぶりを見た常連客の中から「自分もやりたい」という声が上がった。
「直営店が1店舗しかない状態で、『じゃあ会社を辞めて独立しちゃえ。あなたを1号の加盟者にする。マニュアルも何もないけど、それでスタートしよう』と始まったのが1988年です。直営がない状態でフランチャイズ展開から始まるという、かなり珍しいスタートでした」
■銀行、コンサル、そして現場へ。家業を継ぐ気がなかった2代目の決断
(喜多方ラーメン坂内を展開する㈱麺食 代表取締役 中原誠氏)
中原社長自身も、当初は家業を継ぐつもりは全くなかったという。大学卒業後は第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。その後、外食コンサルティングを手がけるベンチャーリンクに転職し、フランチャイズ開発を担当した。さらに「コンテンツそのものを立ち上げる力をつけたい」と、当時勢いのあったグローバルダイニングへ転職する。
「ベンチャーリンク時代の仲間からは『なんで今さら飲食店の現場で働くの?』と言われましたし、グローバルダイニングの現場では『銀行出身の奴がわざわざこんなところに来て』と毎日先輩にしごかれました。」
転機が訪れたのは2005年。長年疎遠にしていた父親が、中原氏が当時店長を務めていた店舗に突然幹部たちを引き連れて現れ、「実家の会社に戻ってこないか」と打診してきたのだ。この父からの打診を受け、中原氏は実家の家業に戻る決心をした。その背景には、母親の死をきっかけに長男としての責任を意識し始めていた中原氏の心境の変化と、当時の麺食の業績低迷があった。
■人件費高騰を見据えた「セントラルキッチン」と、売上の20%を占める「季節メニュー」
(喜多方ラーメン坂内の季節メニュー)
2012年に代表取締役に就任した中原社長は、強固なブランドづくりと業績アップに向けて、新たな施策を次々と打ち出していく。その一つが、2023年9月に初めて稼働させたセントラルキッチン(CK)だ。
「これまでずっと、お店で生肉から手作りでチャーシューを仕込むことにこだわってきました。しかし、これからの人件費高騰や採用難に対して、手を打たなければいけないと判断し、CKでチャーシューを製造する体制を構築しました。今後の多店舗展開に向けての試金石でもあります」
さらに、同社の強みとなっているのが「季節メニュー」の存在だ。ベースとなる定番の喜多方ラーメンが圧倒的な人気を誇る一方で、季節限定メニューが最大で売上の20%を占めることもあるという。
「日常食で来店頻度が高い業態だからこそ、お客様を飽きさせないことが重要です。いつも定番のラーメンを召し上がる方に『ちょっとこれは美味しそうだから試してみるか』と思って頂けるメニューを開発しています。今では季節メニューだけを楽しみに来店される常連さんもいるほどです」
■LAのフェスで確信した「本物の味」。世界へ広がる喜多方ラーメン
(世界展開を推進している㈱麺食)
中原社長が現在もっとも力を注いでいるのが海外展開だ。アメリカ(カリフォルニア、シカゴ)に10店舗、ドイツに2店舗を展開している。
きっかけは2013年、ロサンゼルス近郊で開催されたラーメンフェスへの出店だった。現地の日本人からは「アメリカではあっさりした醤油ベースのラーメンは絶対に売れない」と忠告されていたという。
「12店舗中、日本から招待されたのは私たちだけでした。いざ営業を開始すると、『本物の日本のラーメン』を求める現地の人々から大絶賛を受け、3時間待ちの行列ができました。このフェスで手応えを感じ、2014年にカリフォルニアのコスタメサに1号店を出店しました」
アメリカでは、シンプルなラーメンに多種多様なトッピングをカスタマイズする同社のメニュー戦略が当たった。さらに、アメリカ特有の持ち帰り需要の高さにも同社のラーメンがマッチした。
「当社のラーメンは油分が少ないため、持ち帰って食べても商品のコンディションが悪くなりにくい」という予想外の強みも発揮された。 さらにドイツでは、ラーメンだけでなく、現地の居抜き物件を活用した寿司屋(和食レストラン)も展開し、圧倒的な認知度を獲得しているという。
■ネパールの大学生をインターンで採用。循環するグローバル人材システム
(同社の外国人スタッフサポート体制)
海外展開と並行して、中原社長は「食を通じた外国人人材循環システム」の構築にも取り組んでいる。20年前から外国人人材の採用を始め、現在ではバングラデシュ出身の社員が20店舗以上を統括するユニットリーダーとして活躍するなど、国籍を問わない評価制度が根付いている。
さらに驚くべきは、ネパールの大学と提携した独自のインターンシップ制度だ。
(麺食でインターンをするネパールの大学生)
「ネパールのホスピタリティ系大学の4年生に内定を出し、日本の店舗で7ヶ月ほどインターンシップをしてもらいます。その後、母国に帰って卒業できたら、今度は正社員として就労ビザで再び日本に来てもらう。卒業前に日本の文化や仕事に慣れてもらうことで、立ち上がりが非常に早くなります」
将来的には、彼らが日本で技術とマインドを学び、母国に帰って現地で店舗を展開するような「食を通じた外国人人材循環システム」を作りたいと中原社長は語る。
■目指すは時価総額で世界のトップ10。日本の飲食業は「メジャーリーグ」だ
インタビューの最後に、中原氏に今後のビジョンを伺った。
「日本人のお客様は世界で一番外食に対する評価が厳しいと言われています。言わば日本は、世界の外食市場における『メジャーリーグ』だと思っています。だからこそ、日本の外食企業が海外展開にチャレンジする際には、無理に現地向けのメニューを作るのではなく、私たちが日本でリアルに提供しているものを、そのまま海外に持っていくべきです。もちろん一定のローカライズは必要ですが、軸はブラしてはいけない。」
「私の最終目標は、生きているうちは無理かもしれませんが、飲食企業の時価総額で世界のトップ10に入ることです。日本の飲食業はこれだけレベルが高く、ミシュランの星も多く獲得しているのに、ビジネスとして世界で戦えていない。この課題を解決し、結果を出したいと思っています」
直営ゼロの異例の創業から始まり、国内での堅実な経営基盤を武器に、本物の日本の味で世界に挑む株式会社麺食。中原社長の視線は、すでに世界の巨大チェーン企業たちを見据えていた。
インタビュアー 三ツ井創太郎
三ツ井創太郎 飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表 ㈳日本フードビジネス経営協会代表理事。飲食企業で店長、SV、事業統括の経験を経た後、2011年に東証一部上場のコンサル会社である(株)船井総合研究所に入社。飲食コンサルティング部門のリーダーとして数多くの飲食店支援を行う。2016年飲食店特化のコンサルティング会社(株)スリーウェルマネジメントを設立。「飲食店オーナー様に徹底的に親身なサポートを!」を理念に、個人店から大手チェーンまで日本全国の飲食店へ支援を行う傍ら、テレビのコメンテーターや行政、金融機関と一体となった飲食店支援も行う。著書「V字回復を実現する! あたらしい飲食店経営35の繁盛法則 」はアマゾンの外食本ランキングで1位を獲得。