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採用費0円で新卒70名応募!エイムエンタープライズ志賀社長が語る“人が集まる”業態開発の裏側

人手不足や原材料費の高騰など、外食業界を取り巻く環境は厳しさを増している。採用に多額のコストをかけても人が集まらないと嘆く経営者が多い中、新卒採用において求人票1枚・採用費0円で毎年70名の応募を集め、10名以上の採用に成功している企業がある。 愛知県岡崎市に本社を置き、ホールディングス体制で社員84名、アルバイト355名、グループ年商約20億円の規模を誇るエイムエンタープライズ株式会社だ。

今回は、同社の代表取締役である志賀栄太郎氏に、人が自然と集まるビジネスモデルの裏側と、これからの外食企業が生き残るための戦略について話を伺った。

インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)

■異色の経歴から「首の皮一枚」での大逆転劇

■異色の経歴から「首の皮一枚」での大逆転劇

(エイムエンタープライズ株式会社 代表取締役 志賀栄太郎氏)

志賀社長の飲食業界への入り口は、意外なものだった。新卒で入社した住宅メーカーを1年足らずで退職後、先輩の誘いでバーを手伝い始めたのが飲食の世界に入るきっかけだったという。その後、27歳で自身のバー「サバス」をオープンさせた。

「私は料理も一切できず、お店でできる事はお酒を混ぜるくらいでした(笑)。その後、カフェ『トゥー・ザ・スプーン(to the spoon)』を出店したものの、最初の半年は月商80万円ほどで大赤字。当時まだお子様が小さかった中で、奥様から「娘のごはんを買うお金、もうなよ」と言われ、今月も売上が不調なら閉店しようと思っていた時に、当時は珍しかった『桃のパフェ』をお店で出したところこれが大ヒット、一気に売上が跳ね上がり、九死に一生を得をました。」

現在では、タルト業態「SAN(サン)」、京都の鳥料理「いぶし鳥 一香 」、1mmモンブランブームの火付け役となった「和栗専門 紗織 ーさをりー」、キーマカレーうどん「京都四条くをん」の他に、ダイニング業態など、人気ブランドを多数展開している。

■「人が採用できる業態」から逆算するビジネスモデル

■「人が採用できる業態」から逆算するビジネスモデル

多くの飲食店が直面している「採用難」。同社の最大の強みは、小手先の採用テクニックに頼るのではなく、「人が採用できる業態」を前提としたビジネスモデルの構築を徹底している点にある。

「飲食店の経営においては“人材不足”が一番の課題です。そして、これから人材不足はますます深刻化してきます。だからこそ、どういうところで若者が働きたいかを徹底的に考えてきました。その結果、スイーツやケーキを中心とした“女性が働きやすい業態”に特化して事業展開を行っていくという戦略に行き着きました。その中でも当社では特にパティシエを目指す製菓専門学生を採用戦略の重点に置いています。パティシエを目指す若い女性は数多くいますが、ケーキ店等はまだまだ長時間労働が当たり前という風潮もあり、求職者ニーズと採用側にミスマッチが生じている、こうした中で当社は“パティシエを目指す若い女性”の方々とって働きやすい会社になる事を意識し、組織改革や成長戦略を行ってきました。」と志賀社長は語る。

この成長戦略が見事に機能し、新卒採用ではパティシエ志望の学生を中心に毎年70名もの応募が集まるという。有料採用媒体や採用代行会社などは一切使わず、無料の求人サイトと学校とのパイプのみで採用費0円を実現している。

「働くスタッフワークライフバランスを実現しながら長く働き続けられるよう、残業は1日1時間程度、年間休日も117日をしっかり確保しています。また、当店のメイン顧客層が、新卒応募者のお母様の年齢という事もあり、実際に当店に来店されたお母様が、娘さんの新卒入社先として、当社を推薦してくれるという事も良くあります。こうした安心感も当社の新卒採用応募者が多い一因になっています。入社後も、スタッフとの1on1ミーティングや人事評価制度を通じたキャリアップ支援など、様々な取り組みを行っています。」

■パティシエが料理を作る!?職人不要の新業態「グラメル」

■パティシエが料理を作る!?職人不要の新業態「グラメル」

(洋食とケーキ グラメル)

さらに同社は2024年3月、愛知県岡崎市に新たなブランド「洋食とケーキ グラメル」をオープンさせた。コンセプトは「スロークラシック」。古き良き食文化を現代に合わせた洋食店だ。 特筆すべきは、そのオペレーションである。同ブランドはまだ1店舗であるが、店舗に隣接してセントラルキッチンを構え、手間のかかる仕込みはすべてそこで一括して行っている。

「当社にはミシュラン三ツ星レストラン出身の統括料理長がおり、グラメルの人気メニュー“牛タンシチュー”のデミグラスソースの仕込みに1週間かけたりと、品質には徹底的にこだわっています。しかし、こうした手間のかかる調理は全てセントラルキッチンで行っており、店舗の現場にはいわゆる『料理人』は一人もいません。現場で料理り提供しているのは、全員パティシエのスタッフ達です。」

セントラルキッチンを活用することで、現場での高度な調理技術を不要にし、誰でもお客様が満足する高いクオリティの商品を提供できる仕組みを作り上げたのです。客層も幅広く、30代からシニア層、家族連れまでが訪れ、ランチ・ディナーともに客単価は2,400〜2,500円をキープしているという。

■「伴走型マネジメント」と徹底した権限委譲

■「伴走型マネジメント」と徹底した権限委譲

組織づくりにおいても、志賀社長の哲学は明確です。「社長よりも現場のマネージャーとの関係性を重視する」という方針のもと、給与決定などの権限の90%以上をマネージャーや本部長に委譲している。

「僕が直接現場のスタッフに介入するよりも、人材育成を仕組み化して評価制度や等級制度を細かく作り、マネージャーを中心としたマネジメントシステムを構築した方が、現場のスタッフ達も『どうやったら給料が上がるか』が明確になります。現場のスタッフが社長に媚を売っても何にもなりません、なので社内には私に気を使ってくれるスタッフはいないんです(笑)」

幹部会議でも社長自らがトップダウンで指示を出すのではなく、現場からの報告を聞き、改善のために社業が伴走し、必要であれば予算をつけるというスタンスを貫いています。

■これからの外食産業は「二極化」する

■これからの外食産業は「二極化」する

最後に、これからの飲食業界の展望について志賀社長に伺った。

「今後の飲食業界は、チェーン店と個人店しか生き残れない『二極化』が進むと思います。今のチェーン店は本当にレベルが高く、どこも美味しい。利益が出るビジネスモデルもしっかり作られています。一方で、10〜50店舗規模の中堅企業は、人件費や原材料費をはじめ、あらゆるコストが嵩んでおり、昔と比べると収益性を確保するのが非常に難しい時代になってきています。そして、この状況は今後ますます進んでいくと私は思っています」

「ひと昔前までは、ヒットするトレンド業態をつくり、1~2年で投資回収をし、新たな業態開発を行い、トレンドが終焉する前に新業態で再ヒットを狙っていくというビジネスサイクルが成立していました。ただ、今の時代は店舗をつくる初期投資はコロナ禍前の1.5倍以上になっており、原材料費や人件費も高騰、トレンドサイクルも非常に速い。こうした経営環境においては、今までのやり方は通用しません。時流を先読みし、現状に満足する事なく、経営そのものやビジネスモデルを改革していく事が、経営者にとってとても重要だと思っています。」

コロナ禍の数年前からこうした外食産業の未来を予測していた志賀社長は、「郊外立地」や「固定費が低い場所」で、地域に密着したカフェ&スイーツやクラシカルな洋食といった業態寿命の長い普遍的な業態を展開し、強固なビジネスモデルと財務基盤を築き上げていきました。

「どのように収益性と高めるのか?」というビジネスモデルの設計と、「誰が働きたいと思うか?」という採用目線の両立。これこそが、エイムエンタープライズが圧倒的な採用力とブランド力を誇る最大の理由です。

これからの外食産業においては「働きやすい会社」しか生き残る事はできません。では、いったい「誰にとって働きやすい会社」なのか?

当然ながら「いずれ自分でお店を持ちたい人」にとって働きやすい飲食店と、「ワークライフバランスを重視したい人」にとって働きやすい飲食店は違います。まずは自社が「誰にとって働きやすい会社」を目指すのか?ここを考える必要があります。飲食店がお客様に対して「ターゲット(顧客層)」を考えるのと同じで、採用においても「ターゲット(求職者)」を明確にし、そのターゲット(求職者)が働きやすく、なおかつ収益性を高められるビジネスモデルの構築が、これからの外食業界で生き残る為の鍵となるのです。

 

インタビュアー 三ツ井創太郎

三ツ井創太郎 飲食店コンサルティング(株)スリーウェルマネジメント代表 ㈳日本フードビジネス経営協会代表理事。飲食企業で店長、SV、事業統括の経験を経た後、2011年に東証一部上場のコンサル会社である(株)船井総合研究所に入社。飲食コンサルティング部門のリーダーとして数多くの飲食店支援を行う。2016年飲食店特化のコンサルティング会社(株)スリーウェルマネジメントを設立。「飲食店オーナー様に徹底的に親身なサポートを!」を理念に、個人店から大手チェーンまで日本全国の飲食店100社へ支援を行う傍ら、テレビのコメンテーターや行政、金融機関と一体となった飲食店支援も行う。これまでの著書3冊全てはアマゾンの外食本ランキングで1位を獲得。