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トップダウンで失敗した2代目社長が作った、自走する飲食組織のつくり方

東京・武蔵小山で1992年に創業したカジュアルイタリアン「トスカーナ」を旗艦業態に、現在19店舗・年商11億円規模を展開する株式会社イタリアンイノベーションクッチーナ。同社の代表取締役である青木秀一氏は、新卒で入社してから23年、叩き上げで2023年に事業承継した2代目社長だ。

 事業承継をした経営者の話は「売却した」「急成長した」というキラキラした成功事例が目立つが、2代目社長が直面するリアルな苦労と組織変革のプロセスはあまり語られない。今回は、トップダウンで組織を壊しかけた反省から、コロナ禍を機に「全員が主体的に動くチーム」へと変革を遂げた青木社長のマネジメント哲学に迫る。

■ナンバー2の誤算、トップダウンが組織を割った

■ナンバー2の誤算、トップダウンが組織を割った

(同社代表 青木秀一氏)


青木社長は19歳で入社し、3年で店長に就任。入社8年で役員として経営に参画した。

 「28歳で独立しようと思っていた。その気持ちで動いていた中で、会長(創業者の四谷氏)に引き止められました。『町に行けばどこかにうちの店があって、そこで働くスタッフがキラキラしていて、お客さんも笑顔で。そんな会社になったらどう思う?』と言われて、そんな会社の未来の姿が楽しそうだと思って残ることにしたんです」

 その後、役員として組織拡大をリードしてきたが、6店舗前後になった頃から「多店舗マネジメントの壁」に突き当たった。

 「5〜6店舗まではパワープレイで行けたんです。自分が現場に入れば売上は上がる。でも自分がA店に入ればB店の売上が落ち、B店に行けばA店の売上がまた落ちる。この繰り返しの中で、自分が現場で働く以外の売上の上げ方を知らなかったと気づいた。つまり、自分でやることはできるけど、人に売上を上げてもらうことができなかった」

 さらに深刻だったのが、組織の分断だ。青木氏が創業社長の指示を現場に降ろす際に「社長が言っているからやってください」という伝え方になって、現場からは「これ本当にやらなきゃいけないですか?」という声が出始めた。

 「自分が腹落ちしていない言葉を現場に押し付けていた。そうすると社長派と自分派みたいに組織が割れていく。それが自分のせいだと気づいた時は、本当に失敗したと思いました」

 

■「配慮はするが、遠慮はしない」

 この失敗から青木社長が導き出したのが、「配慮はするが遠慮はしない」という行動指針だ。

 「悩んでいた時に、いろんな飲食企業のナンバー2と言われる方々に話を聞きに行ったら、全部お前のせいだって言われて(笑)。全部自分の言葉になっていないから伝わらないんだと。社長が言っていることに対して違うと思ったことは、配慮はしながらも遠慮せずに社長に伝えないと、現場スタッフにもしっかりと伝える事はできない」

 そこから青木社長は創業者の会長に向き合い、3つのことをお願いした。「お店に来た時にスタッフを褒めてほしい」「感謝を伝えてほしい」、そして「直接の現場指導はやめてほしい。改善点は全て自分に言ってほしい。そこから自分が指導する」というものだ。

 「会長が好かれていないと組織は良くならない。厳しいことを言う役割はナンバー2の自分が担う。そのことに気づいてからは、組織がかなりしっかりしてきました」

 この「配慮はするが遠慮はしない」は、今も社長から社員まで全員に共通の姿勢として組織に根付いている。注意を受けた時は「ありがとうございます」と感謝の気持ちで受け取る。言いたいことは相手が聞いて気持ちよい言い方で、しかし遠慮せずに伝える。この文化がチームの土台になっている。

 

■コロナが引き金を引いた、組織変革の決断

 2023年に代表取締役に正式就任した青木社長だが、事業承継の引き金を引いたのはコロナ禍だった。

 「コロナで営業できなくなった時、このままだと会社がなくなるかもしれないという危機感が強くあった。今何か根本から変えなければ続かないと感じた時に、このタイミングしかないと思って社長就任のプレゼンを資料にまとめて、取締役全員の前で話をさせてもらいました」

 そのプレゼンの核心は「社長が戦略を全て考える組織ではなく、メンバー全員で考える組織を作る」というビジョンだった。

 「僕が社長になるとしても、僕だけが会社の未来を考えるわけじゃないと。全員で考えて、僕はカジを取るだけ。コロナを超えた時に絶対うちの会社は飛躍すると思うから、今このタイミングでやらせてほしいと伝えました」

 それまでは創業社長のカリスマと青木氏のプレイヤーとしての力で引っ張ってきた組織が、ここから「主体性」を軸にした組織へと変わり始めた。

■「燃えるチーム」が全ての土台になる

■「燃えるチーム」が全ての土台になる

(青木氏が考える組織ピラミッド)

 

青木社長が考える「売上と利益が出る仕組み」のピラミッドは、下から「燃えるチーム→QSCHAの徹底→リピーター獲得→コストコントロール→新規開拓」という順番だ。

 「コストコントロールから始める会社は多いけれど、そこから入るとリピーターを失う。人件費を削って接客の質が下がったり、食材を削って常連さんが離れたりする。そもそもチームができていない状態でQSCを徹底しようとしても、なんでこれをやるのかという意味が分からない。この順番でないと、売上と利益は積み上がっていかない」

 

<QSCHAとは>

Q:Quality(品質)

S:Service(サービス)

C:Cleanliness(清潔さ)

H:Hospitality(おもてなし)

A:Atmosphere(雰囲気)

 またマーケティングを先行させることの危うさについても指摘する。

 「SNSで映えるお店を作って集客しても、実際来店した時のチームや店のQSCがダメだったら、逆ブランディングになってしまう。Googleに悪い口コミが増えて、期待して来たけどこの程度かという体験が積み重なっていく。地域に根差して息長くやっていくためには、やっぱりこの順番でやるしかない」

 この考え方の背景には、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という経営哲学がある。青木社長は渋沢栄一の「道徳と利益は一体である」という論語と算盤の思想にも影響を受け、社会的価値と経済的価値の両立を目指している。

■社長自らが担う、毎月の「考え方研修」

■社長自らが担う、毎月の「考え方研修」

(農園視察などの研修も行う)

 

人材育成においても、青木社長は独自の体制を整えてきた。新卒採用に積極的に取り組み、昨年採用した13名のうち現在12名が在籍している。飲食業界では珍しい定着率だ。

 「新卒スタッフは即戦力にはなりませんが、しっかり育てれば2年目から本当に戦力になる。まずは初期研修を通じて、学生思考から社会人思考に切り替えてあげることが大切なんです」

 導入研修は青木社長自身が担当する。そして入社後も月1回、「考え方の研修」を継続する。スキルだけでなく、物事の見方・捉え方を教え続ける。

 「学校で教えてもらえなかったことを研修で伝えると、なるほど、こういう風にいろんな人のことを考えていかないといけないんだなと変わっていくんですよね」

 また全スタッフに「バイブル」と呼ぶ冊子を配布し、「明るく」「爽やかに」といった行動指針を細かく定義している。「明るく」とは目を見て挨拶することだ、「爽やかに」とは身だしなみを整えることだ、という具合に、共通言語として組織全体に浸透させている。

 採用面接には1時間から1時間半をかけ、「うちで本気で働きたいかどうか」を重視する。

 「人がいないからとりあえず採用するのは避けています。お互いの時間を大切にしたい。ここで働きたいと思ってくれる人じゃないと、こちらも熱が入らない」

 求人票にも自社のカルチャーや社会的取り組みをしっかり掲載し、SNSで日常的に情報発信することで、価値観の合う応募者を集める仕組みを整えている。

■「飲食業界で一番働きたい会社」を目指し

■「飲食業界で一番働きたい会社」を目指し

2028年4月を目処に30店舗体制を目指す青木社長が掲げるビジョンは、単なる規模拡大ではない。

 「店舗が増えてもQSCが下がるのではなく、さらに高めていきたい。そして何より、うちで働いている人たちが『ここで良かった』と思える場所を作りたい。給料面も、労働時間も、やりがいも、全部トータルで飲食業界で一番働きたい会社を作りたい」

 その先に描くのは、飲食業界全体の変革だ。「数年後に当社を見た他の飲食企業が、なんであんなに人が楽しそうに働いているんだろうと思って、同じ取り組みを始める会社が増えれば、飲食業界全体が変わっていく。飲食を志す若者に、親御さんが『いいんじゃない』と言える産業にしていきたい」

 トップダウンで組織を割った失敗から、コロナ禍の危機を機に「全員で考える組織」へと変革し、着実に成長を続けるイタリアンイノベーションクッチーナ。2代目経営者が地道に積み上げてきた「燃えるチームづくり」の哲学は、人材不足に悩む飲食業界にとって、大きな示唆を与えてくれる。

 

インタビュアー:株式会社スリーウェルマネジメント 三ツ井創太郎