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なぜ今、居酒屋が「漁業」に向き合うのか?エー・ピーカンパニー代表が語る、生産者と外食をつなぐ経営

養鶏から流通、販売までを一気通貫で手がける「塚田農場」、そして漁師と直結した魚業態「四十八漁場」。これらの飲食店を運営するのがエー・ピーホールディングスグループの国内飲食事業を担うエー・ピーカンパニーです。

エー・ピーカンパニーが展開する飲食店は、単なる“おいしい店”にとどまらず、生産の現場と都市の食卓をつなぐ役割を担ってきました。

その中心にいるのが、代表取締役社長の横澤将司氏です。

陸上自衛隊、俳優志望、飲食の現場——異色のキャリアを経てたどり着いたのは、「食を起点に、産業の構造そのものを組み替える」という挑戦でした。

今回のインタビューでは、エー・ピーカンパニー代表取締役・横澤将司氏に(株式会社エー・ピーホールディングス取締役)、食に向き合う思想の原点から、ビジネスモデルづくりの裏側、そして外食産業の未来像までを伺いました。

インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)

異色の経歴がつくった食へのまなざし

異色の経歴がつくった食へのまなざし

(株式会社エー・ピーカンパニー代表取締役社長 横澤将司氏)

■株式会社エー・ピーカンパニー

東証スタンダードに上場している株式会社エー・ピーホールディングスの国内飲食事業を担うグループ企業であり、「塚田農場」などの居酒屋事業のほか、「四十八漁場」、「芝浦食肉」などの専門店事業、「裏の山の木の子」、「しゃぶしゃぶつかだ」などのレストラン事業など幅広い飲食店を展開している。

なぜ今、居酒屋が「漁業」に向き合うのか?エー・ピーカンパニー代表が語る、生産者と外食をつなぐ経営

横澤氏は異色のキャリアをお持ちです。岩手・陸前高田市出身。 高校卒業後、自衛隊に入隊。 21歳で退職し、劇団員やフリーター、ラーメン店などの勤務を経験後、畜産や外食事業を手掛ける山形県の「平田牧場」に就職。 故郷が被災した2011年の東日本大震災を機に退職し、同年、APカンパニー(当時)に入社されました。

「僕が自衛隊にいた時は災害も戦争もなく、とても平和な時代でした。それはとても良いことではあるのですが、自分自身としてはもっと色々な事にチャレンジしたいという気持ちが強くなり、別の道を目指すことを決めました。」

その後、役者を志しながら、生活費を稼ぐために銀座の老舗ラーメン店で働くようになり、そこで飲食の現場の面白さに惹かれていったそうです。

やがて、ご縁があって入社した会社が当時運営していた焼肉全国チェーンの店舗に勤務。約10年にわたり現場に携わる中で、仕事観を大きく揺さぶられる転機が訪れました。

「外食企業で働き始めた10年目の2011年に東日本大震災がありました。私は地元が岩手の陸前高田なのですが、甚大な被害を目の当たりにして、地元に貢献したいという思いが強くなりました。」

震災を経て、自分の経験を生かしながら、地域に根ざした形で食に関われる仕事はないかを模索するようになったという。

「地元に貢献できるような企業を探した時に、エー・ピーカンパニー(当時)が宮崎県の日南市で、農家さんとタッグを組んで地鶏の養鶏をやり始めていて、一定の成果を残していました。同じようなことを地元でもできたらという気持ちでエー・ピーカンパニーに入社しました」

料理は土の上から始まる

料理は土の上から始まる

(宮崎県日南市の契約農家)

エー・ピーカンパニーの象徴ともいえる業態が「塚田農場」です。

養鶏から加工、流通、販売までを自社で担う“生販直結モデル”を早くから実践してきました。

「塚田農場では、川上から川下までというコンセプトのもと、土の上から料理を始めていきます。土の上の雛の段階からストレスを取り除く飼育や、その親鶏の段階から味や品質を決めるような飼育を研究し、安心で美味しい地鶏を提供できるよう様々な取り組みを行っています。」

 

横澤氏はこうした塚田農場の取り組みを見て、このビジネスモデルを「魚業態」にも応用できないかと考えるようになりました。

料理は船の上から始まっている

料理は船の上から始まっている

(提携漁師による操業風景)

魚業態「四十八漁場」でも、“生販直結”の考え方が、色濃く反映されています。

「私達は魚業態においても生産者からお客様(消費者)までを自社で一貫して手がける“生販直結”という独自のビジネスモデルを構築しています。特に魚は鮮度が落ちやすいので、釣った瞬間(一次産業)から流通(二次産業)、販売(三次産業)まで様々な課題をクリアしていく必要があります。もちろん鮮度管理だけではダメで、魚の個性、味を意識した取り組みも重要です。」

魚の鮮度と味を重視する横澤氏が1つの例としてあげたのが、“血”の扱いです。

「よく“究極の血抜き”って言われますけど、

僕はあれを“究極の個性抜き”だと思っているんです。血も個性なので、血を抜きすぎると味がすごく弱くなっていく。なので、漁師さんと一緒に、”何番目のエラを切ることによって、何パーセント血が残って、これが店舗で流通する段階でちょうどいいおいしさになる”というような事を、魚種によって細かく調整しています」

なぜ今、居酒屋が「漁業」に向き合うのか?エー・ピーカンパニー代表が語る、生産者と外食をつなぐ経営

(同社が行っている生販直結のビジネスモデル)

「居酒屋から漁業を創造する」というミッション

魚事業「四十八漁場」がまだ軌道に乗っていなかった頃、エー・ピーカンパニーは「自分たちの強みはどこにあるのか」を改めて整理したそうです。

「2013年ぐらいですかね。まだ四十八漁場の売上が低迷していた時期に、自分たちの強みを改めて整理したんです。結果、 “居酒屋から漁業を創造する”というブランドミッションを掲げるに至りました」

こうしたブランドミッションを掲げる中で、横澤氏が課題として捉えている点のひとつに、未利用魚、低利用魚の問題があります。

「この気候変動の影響で、獲れる魚ってもうガラッと変わってきているんですよね。今まで当たり前に食べる事ができた魚が獲れなくなるという事が、どんどん起きてくると思います。」

こうした中で未利用魚、低利用魚に注目が集まってくる事が予想される。ただ、そこで重視しているのは、未利用魚、低利用魚を「安く使う」ことでは無いそうです。

「フードロスっていう言葉自体が、ちょっとネガティブだなと思っていて。一方的に価値が低いと決めつけて安く買いたたくのは違う。僕らは、より価値をつけて、どこまで適正な価格へと引き上げられるかっていう取り組みを目指しています。食材の持つ本来の価値を理解し、価値に見合った価格で取引する。フードポテンシャルの世界を目指しています。」

例えば、通年獲れるにも関わらず、季節によって評価が変わる魚も、工夫次第で価値を付けられる。

「夏場のアンコウって、冬場に比べるとかなり安いんです。夏に獲れたアンコウを特殊冷凍技術等を活用して備蓄し、冬に使えば、漁師さんの収入が何倍にもなる可能性があります」

横澤氏は、こうした取り組みこそが飲食店の役割だと語る。

「目先の利益を追い求めて、単発的なビジネスに向かいがちですが、やはり資源、食材は限られているので。どう価値をつけて、どう漁師さんの収入につなげていくのか。そこまで考えたブランドを構築していきたいと思っています」

近年、外食ブランドの認知施策としてSNSやWEBマーケティングが重要視されていますが、こうしたマーケティングのあり方についても、横澤氏は独自の考えをもたれています。

「四十八漁場」の業績アップを実現したリブランディング

「四十八漁場」の業績アップを実現したリブランディング

(四十八漁場店舗)

SNSやマーケティング施策が氾濫するなかで、横澤氏は、短期的な話題づくりではなく、時間をかけて積み上げていくブランディングの価値の重要性を強調する。

「トレンドやマーケティングはやっぱり短期的なものなんです。もちろん、どちらも大事だとは思うのですが、僕らみたいに漁師さんとか生産者さんと一緒にやっているのであれば、短期的なものよりも、長期的に持続可能な取り組みとして、ブランディングに力を入れたいと思ってきました」

横澤氏が考えるブランディングの本質は、極めてシンプルだ。

「ブランディングとは、誰にどう思ってほしいかを明確にし、それを計画的、戦略的に取り組んでいくものだと思っています。商品やサービスをブラッシュアップしたり、ポジションが合っているかを確認したり、文化として醸成できているかを見ていく。それの積み重ねが重要だと考えています」

なぜ今、居酒屋が「漁業」に向き合うのか?エー・ピーカンパニー代表が語る、生産者と外食をつなぐ経営

(横澤氏が考えるブランディング)

四十八漁場のリブランディングも、こうした考え方の延長線上にあったそうです。

13〜14年前、自分たちが理想とするブランドイメージを定義したものの、実際に店舗に来店したお客様が持っている印象との間には大きなギャップがあったとの事。

「自分たちは“漁師直結で、鮮度感があって、シズル感のある豪快な漁師料理の店”だと思ってほしかった。でもSNSやWEBでエゴサーチしてみると、我々の想いとは異なる、いわゆる“映える写真”等が多数上がっていました。もちろん“映える写真”や料理が悪いという事では無く、我々が伝えたいブランドの価値と、来店されたお客様が感じる価値がズレてきてしまっている事に気づきました。」

そこで横澤氏は、ブランドの再構築、つまり「リブランディング」に着手しました。

 

「リブランディングを進めるなかでまず初めに行った事は、店舗で働くスタッフの意識改革です。もちろん当時のスタッフのみんなは一所懸命に働いてくれていました。そうした中で、スタッフの頑張りを決して否定するのではなく、自分達として改めて“何を大切にしているブランドなのか”という事を、全員に根気強く伝えていきました。」

漁師さんを巻き込み、社内SNSを通じて魚の情報を共有し、アルバイトも含めて“どう価値を伝えるか”を現場レベルまで落とし込んでいったそうです。

「生産者さんも巻き込みながら、社内のSNSに漁師さんも入れて、“お客さんがこれだけ喜んでますよ”と伝えたり、“漁師さんは今こういう漁業をやっていて、こういうのが獲れるから売ってね”と共有したりと、アルバイトさんが出勤前に確認して、お客さんに魚を見せながら届けるようなスタイルに変えていったんです。そうしたら、シズル感とか漁師直結感みたいなものがお客さんに伝わり出して、一気に持たれるイメージが変わっていきました」

「組織のメンバーが納得してないと、ブランドは輝いていかない。なので、教育や組織設計を先に整えて、そのうえでブランドを切り替えていく。ブランドが輝いてきたなって実感できた時には、もう売り上げは上がっていました」

 

こうした取り組みが功を奏し、四十八漁場の業態売上はリブランディング開始から5年で1.8倍にまで成長しました。

「寄せ鍋」のように、関係者をひとつの場へ

「寄せ鍋」のように、関係者をひとつの場へ

(生産者、店舗スタッフ、お客様が繋がるAPホールディングスのファンコミュニティサイト「YOSENABE」)

横澤氏が次に見据えているのが、顧客・従業員・生産者を横断的につなぐ取り組みです。

その象徴が“YOSENABEプロジェクト”。

「これはコミュニティサイトで、お客様と従業員と生産者が全部“入っている”んですよね。お客さんと従業員と生産者を、ひとつの寄せ鍋に入れるっていうイメージです」

生産現場の難しさや厳しさ、会社の取り組み、食べ物の情報を“ごちゃごちゃに共有する”。その過程で、お客様の声が生産者に直接届き、生産者の方々のモチベーションにもつながる好循環をつくろうとしています。

「お客様が“美味しかったよ”っていう声を、生産者の方も同じ温度感で確認できるようにしたい。将来的には、生産者が直でお客様と繋がって、直接魚を買ってもらえるような状態にしたいと思っています」

横澤氏がファンコミュニティサイトを立ち上げた背景には、強い課題意識がある。それは、漁師さんや、自分たちが積み重ねてきた取り組みや社会的価値が、十分にお客様に伝わっていないという実感です。

「漁師さん達も素晴らしい魚を届けてくださっているのに、その価値があまりお客さんに伝わってない。これが伝わりきってないってことは、おいしさも半分しか伝わってない可能性があるなと思って」

さらに横澤氏は、外食産業全体が直面している“三つの限界”にも言及しています。

 

外食産業が直面する三つの成長限界とは?

人材不足による飲食店運営の限界、生産現場の高齢化やコスト高による生産の限界、そして家計の余裕が失われつつある消費の限界です。

「人がいなくて回らない。餌や肥料代の高騰などで生産も持続不可能になりかけている。物価の上昇でお客さんも余裕がない。特に3,500〜4,000円くらいの業態は、本当に影響を受けている印象があります」

こうした状況下で、横澤氏が目指すのは、外食の価値そのものを高め、そこで生まれた利益が働く人や生産者に還元され、再び消費へと循環していく構造です。

その第一歩として位置づけられているのが、先ほど挙げたYOSENABEプロジェクトであり、体験型の取り組みです。

「田植えツアーとか、漁業のツアーとかも企画しています。美味しい理由も、農業や漁業の大変さも全部知ってもらうことで、食べること自体がもっと豊かな体験になっていくと思うんです」

上場企業として市場から求められる成長と、社会的価値の創出。その両立は決して簡単な道のりではありません。

 

横澤氏はインタビューの最後にこう語りました。

「社会的に貢献しながら、そのフィードバックとして経済的利益を得ていく。その想いを生産者の皆さんや社員と一緒に共有しながら、外食ビジネスの未来をつくっていきたい」

居酒屋という場から、生産・流通・消費の関係性を組み替えていく。

横澤氏の挑戦は、外食産業の枠を超えたところへと、大きく踏み出しています。

 

横澤氏の言葉は、外食を「儲かるかどうか」ではなく、「どんな循環をつくるか」という視点で捉え直すきっかけを与えてくれました。

 

インタビュアー 三ツ井創太郎

編集 金山悠吾

なぜ今、居酒屋が「漁業」に向き合うのか?エー・ピーカンパニー代表が語る、生産者と外食をつなぐ経営

(横澤氏が考える「外食産業3つの成長限界」)