「正直、昔は仲が悪かった」兄弟が、コロナ禍創業から5年で90店舗を作れた理由
「正直、昔から兄弟の仲が良かったわけではない」
そう語るのは、株式会社double取締役の松井利也氏だ。
コロナ禍の2020年7月に創業し、わずか5年で15ブランド・約90店舗まで拡大した同社を率いているのは、かつて衝突も多かった兄弟だった。
「肉汁とっつぁん」「餃子のかっちゃん」を筆頭に、大衆酒場業態で存在感を放っている株式会社double。なぜ、これほどのスピードで成長できたのか。その背景には、兄弟による分業経営と、徹底したマーケティング、そして独自の出店戦略があった。その成長の裏側について、取締役の松井利也氏に話を聞いた。
インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)
(株式会社double 取締役の松井利也氏)
「肉汁とっつぁん」と「餃子のかっちゃん」というdoubleを象徴する二つのブランドは兄弟それぞれが担当を分けて運営している。
「兄(松井勝也氏)と自分でエリアごとに分けていて、基本的には、私は九州と関東、兄は関西と東海を担当しています。」
今でこそ強いタッグを組む兄弟だが、元々は対照的だった。
「元々は仲が悪かったんです。兄はいわゆるヤンキーで、私はそれを反面教師にしていました(笑)。ただ、大学の入学金が足りなかった時に、兄が起業のために貯めていた資金から、ポンと私に100万円を貸してくれて。そこから兄をリスペクトするようになりました。」
意見は割れる。でも「決められない」は起こさない
会社経営を行う上で兄弟経営は「絶対的な信頼関係がある血のつながった右腕がいる」というメリットがある一方で、「兄弟経営でトラブルが発生した」という話もよく耳にしますが、松井兄弟はどのように兄弟経営のリスクを回避しているのか聞いてみました。兄弟経営で最も気をつけているのは「最終決定を行うリーダーを曖昧にしない」ことだという。
「兄弟で意見が割れることは頻繁にありますが、プロジェクトごとに兄弟間のどちらがリーダーかを決めていて、議論はしますが"最後に決めるのはプロジェクトリーダー”というルールにしています。当然ながら責任もそのプロジェクトリーダーが取るようにしています。」
プロジェクト単位でリーダーを決めるというルールが、兄弟経営のリスクを回避している。もちろん同社が成功した理由は「兄弟経営」だけではない。次は同社が得意とするドミナント展開(同じ街にあえて複数店舗を出す戦略)について聞いた。
「客単価500円ずらし戦略」が可能にするドミナント展開
(全国にドミナント展開を行っている)
doubleが得意とするのが、1エリアに複数店舗を集中させるドミナント展開だ。ドミナント戦略は効率的な店舗運営が可能になるという反面、自社店舗間のカニバリゼーション(共食い現象)が起きやすいというデメリットもある。
そのデメリット回避の為に意識しているのが、ブランドごとの客単価を約500円ずつずらすという戦略。
「うちはドミナント展開を得意としています。1エリアで8〜10店舗出店させるというケースもあります。その際には各店舗がカニバリゼーションを起こさないよう、500円くらいの客単価の差をつけるようにしています。」
さらにマーケティング戦略についても、松井氏なりの哲学があるという。
マーケティングは“専任”だからこそ機能する
(同社が行うマーケティング施策の一部)
doubleでは、店舗のマーケティングを現場任せにせず、本部の専任チームが、集客戦略を一手に担う。
「現場スタッフがマーケティングをやると、どうしてもオペレーション目線やお店都合になりがち。マーケティングは本来顧客目線で発想する事が最重要なので、当社ではまず、本部の専任チームにマーケティング戦略案を出してもらい、そこから現実的な運用を考えていくという流れをつくるようにしています。」
新店舗のオープン時には戦略的にインフルエンサーを活用し、集客を最大化。あえて“満席から始まる店”をつくることで、早期に店を軌道に乗せ、投資回収期間を早める事に成功している。
「安い」だけでは終わらせない、ネオ大衆酒場
(肉汁とっつぁんの店内)
doubleが目指すのは、単なる低価格競争ではない。
「今、"安い店"は溢れているので。差別化するために、どこにでもあるものではなく、少し捻ったものを置くようにしています。ドリンクに関しても、流行り出したものをいち早くキャッチアップして、積極的かつスピーディーにメニューに入れるようにもしています。もちろん料理の味に関しても、かなりこだわっています。」
(豊富なドリンクメニュー)
また、手書きの札や照明など、細部にまで気を配り「居心地の良い酒場」としての空間づくりも重視している。
視認性を徹底的に研究してつくられた外観デザイン
(肉汁とっつぁん 渋谷本店の外観デザイン)
「外観に関しても、出店予定エリアの競合店舗を見に行って、どういうデザインだったらその街で目立つのかを徹底分析して作り込んでいます。一回転目、二回転目は予約で埋められるんですが、二軒目として選んでもらうには、店前通行客に対して“圧倒的な視認性”を獲得することが重要だと考えています。」
500店舗へ。そのためにも“選ばれる会社”であり続ける必要がある
(同社の会社概要)
目標は500店舗。
国内だけでなく、ベトナムをはじめとした海外展開も視野に入れている。
松井利也氏は事業拡大を行う一方で、社内のマネジメントに関しては「縛りすぎない組織」であることを大切にしているという。
「うちの会社にいる意味がなくなったら、必ず人は離れる。500店舗を実現するという事は、それだけ多くの仲間から支持される会社でなければならない。”仲間から選ばれ続ける会社“でいる事を経営の最重要課題に据え、社員の主体性やチャレンジを応援する企業風土を構築しています」
大衆酒場の競争が激化する中で、「兄弟経営」「最新のマーケティング戦略」「ドミナント出店」「仲間から選ばれ続ける会社」という強みを武器に急成長を続ける株式会社double。
今後は、日本全国へのフランチャイズ展開も本格化させていくという。
かつて仲が悪かった兄弟が、今は同じ未来を見据えている。松井兄弟の挑戦は、まだ始まったばかりだ。
インタビュアー 三ツ井創太郎
編集 金山悠吾