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アルバイトが「ここで働き続けたい」と思う会社のつくり方

株式会社ANFに聞く「採用・育成・組織づくりを成功させる実践メソッド」

 「人が採れない」「育たない」「すぐ辞めてしまう」。多くの企業、とりわけサービス業や飲食業界でよく聞かれる悩みです。しかし、成長を続ける企業を見ると、単に採用活動の巧拙だけではない違いがあります。

 共通しているのは、採用・育成・組織づくりがアルバイトから社員まで、一本の思想で設計されていること。アルバイトが自然に社員をめざし、若手が店長やマネージャーへと成長し、組織が拡大しても離職率が崩れない。こうした企業に共通する「構造・手法」には何があるのか。

 株式会社ANF(エイエヌエフ)は大阪市を中心に韓国居酒屋「OKOGE(オコゲ)」「コギソウル」、またイタリアン「COMMA,(カンマ)」、寿司居酒屋「だるま道場」などを展開し、アルバイト採用の中から一定割合が社員登用し、現在在籍している社員のうち3割のメンバーはアルバイトから登用しています。

 10年ほどのうちに年商20億円、従業員数約500人に成長した同社の八尋貴司専務取締役に、アルバイトが「ここで働き続けたい」と思う会社のつくり方を聞きました。八尋専務自身、「代表がもともとの友だちだった」という理由での入社。アルバイトからの採用に違和感はありませんでした。

採用の本質は「選ばれる信頼関係を築くこと」

採用の本質は「選ばれる信頼関係を築くこと」

(株式会社ANF 専務取締役 八尋 貴司氏)

「社長はお客さま目線でものを考え、僕(八尋専務)はスタッフ目線でものを考える。そういう役割分担が自然にできてきました。アルバイトが自然に『社員になりたい』と思える組織になろうと考え、自分たちが人を選ぶより選ばれる存在になろうと考えてきました」と八尋専務は語ります(以下、発言は八尋専務)。

 ANFでは2016年7月の設立時から「心に残る、最高のエンターテイメントを!」を理念に掲げ、設立直後からInstagramやTikTokを活用して広報に努めてきました。これらをきっかけに人気に火がつき、同社が手がける韓国居酒屋などは連日満席の繁盛店へと発展しました。

 創業10年で年商20億円にまで成長。その数字を実現する採用・人材育成と組織づくりには、“時の運・逸材の存在・経営者の努力・業態の力”だけではない「強み」がありました。

 まず多くの企業が採用活動で力を入れるのは、求人媒体の改善や面接技術の向上などテクニック的なことです。ところが八尋専務は次のように語ります。

 「ウチは自社の社員から友人や知人などを紹介してもらうリファラル採用に力を入れてきました。アルバイトに、『ANFという会社、代表者の思い、会社理念、キャリアアップ、評価制度、売上、従業員数、スタッフインタビュー、社内イベント、数字で見るANF、店舗一覧』などをしっかり説明して選んでもらえるように心がけてきました」

 長期的に見て本当に効果があるのは、入社前から信頼を積み重ねていくこと。これを徹底してきたのです。

「今は採用のInstagramをけっこうつくり込んでいます」

 またANFでは、毎月1回、アルバイトリーダー向けの勉強会を行っています。

「この勉強会ではどの会社に就職しても通用する『社会人としての基礎力』を教えています。社会に一歩出たときに必要なタスク管理の方法、優先順位の考え方、コミュニケーションの理論、物事の捉え方など。ANFの社員になったときに大切であるのはもちろん、どの会社でも通用する力です」。

 会社はともすると、アルバイトに対する教育がマニュアル的であったり、作業的なことだけでほとんど何も教えなかったりすることもあります。一方、自社にとって有利になることだけを教えるケースもあります。しかし、いずれもアルバイトにとっては刺さりません。

「アルバイトにとって何より重要なのは、この会社にいると、自分が成長できると実感できるかどうか。これが最大の魅力になるのです」

 社員とアルバイト個人の日々の人間関係の中で、「この人たちと働きたい」「ここでなら成長できる」と思ってもらえれば、アルバイトから入社してくれる人の数も増えます。

「他社から内定をもらっても最終的にウチを選んでくれる人もいます。採用では入社前から日常の信頼を積み上げていく気持ちが大切です」

 なお、A N Fでは「これは!」と思った人材、意欲の高い層、リーダー候補に絞ってより関係性を深めているようです。アルバイトの中でも主体的に動いている人、チームをまとめている人、学ぶ姿勢のある人。こうしたリーダー層に経営陣や幹部が対話して育てていく。距離が縮まり信頼が深まり、将来像を共有する。このプロセスがあるからこそ、意欲の高いアルバイトも「この会社で社員として続けたい」という意思が強まるのでしょう。

 現在、同社の全従業員は約500人。創業時、規模の小さかった頃からこの信頼関係づくりを重ねてきた結果が、強い組織を生んでいます。

いきなり「勝ち」をめざさない。段階の設計がカギ

 同社の平均年齢は27歳ですが、特に若手の多い飲食業の組織は、「サークル化」することを最優先に組織をつくっていきます。一方、いきなり「強豪校化」して勝ち続けるために何が必要かを考え、勝ち続けることを前提にする組織もあります。

「A N Fでは『遊ぶように仕事をしよう』と言っています。サークルでコミュニケーションをとって組織の一体感をつくったあとに、強豪校化ではなく部活化していくイメージです。強豪校に行きたいメンバーがウチにいるわけではありません。自分の現在地を見て、『あまりやる気ないのかな』などとこちらが思ったら、まず『楽しく働こうぜ』と声をかけていく。楽しく働ける人を採用して、『せっかくやるのなら勝ちたいよね』という気持ちに持っていき、『勝つのが楽しいよ』とワンランク上をめざすマインドセットができたらいい」

 マインドセットには心理的安全性が欠かせません。まず「楽しい」「安心できる」「仲間がいる」という土台をつくり、徐々に高みをめざす“成果志向”へと引き上げていくことが大切です。

評価と感情を分けることで組織は安定する

評価と感情を分けることで組織は安定する

(同社のキャリアビジョン)

 組織づくりで最もむずかしいのが「評価」です。「頑張っている人を認めたいけど、結果が出ていない」「努力はしているが数字がともなわない」。こうした状況で感情を織り交ぜて評価すると、組織のメンバーには不公平感が生まれます。

「重要なのは、『評価は事実にもとづき、承認は感情にもとづく』といったように、評価と感情を切り分けること。公平で透明性のある評価は組織の信頼を生みます。A N Fでは一般社員から店長になるまで最短3カ月で到達できるよう育成しています。社員は一般社員から店長、エリアマネージャー、統括マネージャーと、個人がどのようなキャリアアップを図るかがわかり、店長以上に対しては、3カ月に1回、人件費率予算達成率、原価率予算達成率、C S(顧客満足度)、売上予算達成率の4項目で評価し、全店舗を店数化してランキング形式で発表して昇降格を決めています。店長同士のランキングバトルですね」

 なお、店長までの一般・副主任・主任・副店長、店長候補に関しては行動評価などを点数化し、昇降格を決めているとのこと。

「サービス研修や調理研修が毎月1回あり、マネジメントの座学が月4回あります。年間の昇進評価回数は4回。店長未満の社員をマネージャーと部長が面談し、『いけそうかな』と思ったら『いったん店長でがんばってみましょう』と告げて昇進昇格するわけです。ですから、降格も普通にあります。ただ、降格をネガティブに考えさせないようにすることが大事。少し未熟な状態でチャンスをもらって昇格した。少し経験を積んで、『でもちょっと早かったね』と降格するだけです。ただ、『1つ上の視座を理解した状態で戻るのだから、パフォーマンスは上がるよね』と伝えています。部活もスタメンになれなければ試合に出られません。誰よりも朝早くから練習しているだけでもスタメンにはなれない。がんばっていた努力が、会社が求めるがんばりとズレていたら降格はあり得ることです」

 なお、頻繁に昇降格が行われますが、「そのつど何をどう評価したか」の結果がわかり、「何ができれば昇格になるか」が明確になることも大事です。

「何をしたら上がれるということは、はっきり明示しています」

 評価の説明はロジカルに、しかし感情面では寄り添う。こうした対応により、降格は罰ではなく「学びの期間」として受けとめやすくなるのです。部活動を想像してみてください。試合に出られないことは人格の否定ではありません。チームとして勝つための選択です。社会人の組織でも同じことがいえます。

面談の文化が離職率を下げる

 A N Fでは月間・年間休日、住宅・家族手当のほか社員紹介・靴の新調・資格取得・勉強補助・従業員割引などの各種手当や制度を設けています。こうした福利厚生を充実させるとともに、実は効果が高いのが「面談文化の醸成」です。面談が根づいている組織は、離職率が低く、パフォーマンスも向上しやすい傾向があります。

「ポイントは『聞く』を中心に置くこと。『聞く』が7〜8割、『話す』が2〜3割が理想です。話すことも、客観的に見ると今こういう状態だから、もっとがんばろうねと言ってあげたほうが、感情と論理や理屈がぐちゃぐちゃにならなくですむと思っています。面談は評価時期にかかわらず頻繁に設定していますが、重要なのは面談で話し合ったテーマにゴールを設定すること。この人にどんな成長をして、どんな視点を持ってほしいのか。このイメージができてない状態で面談すると、たぶんズレると思う。マネージャーは店長と面談し、僕はマネージャーと面談し、店長にスタッフ面談のやり方も指導します。面談しないのがいちばんダメ。離職率も上がり採用費も上がるのですから」

 なお八尋専務自身、創業時から上下関係なく「聞く」ことはずっとやっていたとのこと。

「僕は飲食業の経験がなく当社に入った。飲食業の型にはまっていなかったからよかったのかもしれません」

 面談は評価を伝える場ではなく、思考を整える場と捉えてもいいでしょう。自分の現在地を理解し、次の一歩を明確にする。面談する側・される側ともにこの思考で面談できると、本人の主体性が高まり、成長スピードが上がります。

社内イベントは「遊び」ではなく「接着剤」

社内イベントは「遊び」ではなく「接着剤」

(同社の年間社内イベント)

 ANFでは主要イベントとして、新入社員歓迎会、スポーツフェスティバル、社員旅行(韓国での業態学習)、夏の大BBQ大会、林間アルバイトリーダー合宿、バーニングマンと称する表彰を含めた社内祭典などがあります。社員・アルバイトの区別なく実施するイベントもあります。

 これらのイベントは部署を越えたつながりをつくり、経営陣との距離を縮め、一体感を醸成します。社員・アルバイトリーダーが企画立案し、催行します。イベントはただの遊びではなく、組織を横につなぐ接着剤なのです。

「イベントはちょっとずつ増えていきました。実行委員などの役割分担を決めてやっていきましょう、と。今の状態になるまで3〜4年はかかりました」

 楽しさは偶然生まれるものではなく、設計によって再現できるもの。ANFのイベントはこれを体現しています。

マーケティングも育成も同じ構造で考える

マーケティングも育成も同じ構造で考える

(当社のイタリアン業態 COMMA, )

 急成長する企業には、必ず優れたナンバー2がいます。飲食事業の各店舗にも、店長だけでなく優れたナンバー2がいるものです。A N Fではそれが一定の評価を得た店長候補・副店長などの存在です。

 「ナンバー2には店長に対して意見を伝える、上意をそのまま現場に投げない、組織にポジティブな解釈を広げるといった役割があります。社長と僕の関係では、『今社長は現状をこう分析していて、僕は専務として『このまま行くとこうなると思う。社長はどうされますか』と聞く。ナンバー2は思いと事実を切り分けて提言する。ジャッジは社長です」

 組織づくりとマーケティングは似ています。

「A N Fでも重点店舗や重点施策を決め、KPI(重要業績評価指標)を設定し、週次で確認します。2〜3カ月ごとに見直し、成功事例があれば成果発表を行い、他の業態で活かせないかなど横展開します。週時でKPIを変えて分析しながら、磨き込んで勝ちパターンをつくったら、それを横展開していくイメージです」

 KPIを定めている以上、重要なのは「やったかどうか」ではなく成果が出ているか。タスク管理とKPI管理を分けることで、組織づくりもマーケティングも改善の精度が上がります。

 組織づくりでこの思考が組織全体に浸透していると、育成も評価もブレません。

 

 採用、育成、組織づくりのすべての土台にあるのは「楽しむ力」です。「あなたの本気が世界を変えていく」。これはANFのリクルートサイトのキャッチコピーですが、本気で遊ぶ人は本気で仕事をする。「楽しむ」とは困難を前向きに捉え、挑戦を楽しみ、学びを喜ぶこと。楽しいと人は考え続け、考え続ける人は成長します。

 アルバイトが社員になる会社は、特別な採用テクニックを持っているわけではありません。日々の関わりを通して信頼を積み上げ、成長の機会を常に提供し、未来を見せているのです。

 採用は結果。育成は過程。組織づくりは設計。組織づくりと育成の結果が採用として表れるのです。この3つを一貫した思想でつなげ循環させることができた企業だけが、長く強く成長し続けます。人材不足の時代だからこそ、目の前の一人に向き合う。そこから始まる組織設計が未来を変えていくのです。

「これからも本気で遊んで本気で仕事するメンバーを増やしたい。今創業10年ですが、新たなしくみを活かしつつ100年続く会社にしたいですね」

 八尋専務はこう抱負を語ってくれました。

 

<株式会社ANFのリクルートサイト>

https://anf-company.com/recruit/

 

インタビュアー:株式会社スリーウェルマネジメント 三ツ井創太郎

https://www.threewell.co/

 

ライター:菱田秀則