飲食店が値上げで原価率を下げる時に注意をするべき事|飲食店コンサルティングのスリーウェルマネジメント
飲食店が値上げをする際に注意をするべき事|飲食店コンサルティングのスリーウェルマネジメント
飲食店コンサルタントの三ツ井です。
先日は和食店を経営する社長様より
「最近の仕入食材価格高騰に伴い原価率が高騰し、かなり困っている」
というご相談を頂きました。
こちらの社長様に限らず、多くの飲食店様にとってここ最近の仕入食材価格高騰はとても頭が痛いお悩みかと思います。
皆さんのお店では原価率を下げる為にどのような対策を講じておられますでしょうか?
飲食店経営において原価率を低減する際には下記3つの対策を行うのが一般的かと思います。
飲食店が原価率を下げる為に行う3つの対策
①仕入価格を下げる
②ロスを減らす
③値上げをする
①の「仕入価格を下げる」に関しては、できれば嬉しいですが、これだけあらゆる食材が値上がりしている状況においては、かなり難しい戦略と言えます。
②の「ロスを減らす」については、直ぐに実行すべき対策です。ロス低減を実現する為には、まずどんな食材がロスになっているかを正確に知る事から始めて下さい。具体的には実際原価率と理論原価率の差異から「ロス率」を割り出したうえで、日々のロスチェック表等を活用し「日々のロスを見える化」していく事が重要です。
複数店舗を展開している企業であれば店舗間の「ロス率」や「在庫回転日数」を比較分析する事で、ロス発生リスクの高いお店を割り出す事も重要です。
③の「値上げをする」に関しては、ニュース等でも連日外食企業の値上げが報じられている通り、現状の急激な食材価格高騰を踏まえると「やらざるを得ない対策」かと思います。しかし値上げに関しては、やり方を間違えると「致命的な顧客離れ」を招く恐れがある為、「値上げの方法」をしっかりと考える必要があります。
ここで少し飲食店における「値上げの方法」に関してお話をさせて頂きます。
飲食店が値上げで原価率を下げる際に注意をするべき事
飲食店の値上げには大きく分けて2つのパターンがあります。
①価格弾力性が高い商品(業態)の値上げ
「価格弾力性」とは、値上げに対するお客様の反応度合いを表す指標です。つまり価格弾力性が高い商品=お客様が値上げに敏感な商品という事です。
飲食店における価格弾力性が高い商品の例を上げると「生ビール」「焼肉の並カルビ」「焼鳥のもも」など、お客様がその商品の価格でお店のコストパフォーマンスを判断するような商品です。
なお、価格弾力性は商品だけでなく、業態についても言えます。例えば「均一価格居酒屋」「牛丼店」「ラーメン店」などといった、価格均一店や単一専門店は価格弾力性が高く、値上げに対するお客様の反発が強い傾向があります。
こうした価格弾力性が高い商品(業態)で値上げを行った場合は、客数の減少リスクはかなり高くなりますが"客数減少=売上減少”と‟値上げによる粗利増加”の両方をシミュレーションした上で値上げ額の判断を行う事が重要です。
飲食店の値上げによる客数減少と粗利増減の相関シミュレーション
上記の表は弊社のご支援先のラーメン店で実際に行った値上げのシミュレーションです。
現状は月商497万円、食材価格の高騰により原価率は35.9%と上昇しています。
こうした中で一番商品のラーメンの売価を710円から740円に値上げする事を検討しました。
社長様は「値上げをしないとやっていけないが、値上げをしたら売上が落ちるのではないか・・・・」
と心配されておられました。確かに売上(客数)減少は心配ですが、値上げを行う際には「売上(客数)視点」だけではなく「粗利視点」を持つ事が重要です。
上記表のシミュレーションでは値上げ後の客数減少率と月間粗利の相関関係をシミュレーションしています。
シミュレーションの結果「客数減少が値上げ前対比94%までであれば、たとえ売上が減少しても粗利は値上げ前と変わらない」という事が分かります。
このシミュレーション結果を見て社長様は値上げを決行する意思決定をされました。結果的には値上げの翌月は値上げ前対比97%程度の客数減少となりましたが、粗利額は値上げ前を上回り、値上げから3カ月後には客数も値上げ前に戻りました。
②価格弾力性が低い商品の値上げ
一方で価格弾力性が低い商品の例を上げると「生絞りフルーツ等を使った高品質サワー」「焼肉の上、特上カルビ」「焼鳥の高単価串」などのいわゆる贅沢カテゴリーの商品です。
一般的に顧客離れのリスクが少ないのは②の価格弾力性が低い商品の値上げです。ただ価格弾力性が低い商品は売上構成比がそこまで高くないため、値上げによる原価率改善インパクトも限定的となります。
最近の急激な原価高騰を考えると②だけでは原価率低減効果が限定的となってしまう為、①と②を上手に組み合わせた値上げ戦略が重要になります。
なお、値上げをする際に最も重要な点は「お客様に値上げを許容して頂くQSCレベルを実現できているか」という事です。お客様は最終的にはお店の付加価値と価格を見た上でコストパフォーマンスを総合的に判断します。そういった意味でも、そもそもQSCレベルが低いお店は、お客様から値上げに対するご理解を頂く事は困難と言えます。
ここまで「仕入価格を下げる」「ロスを減らす」「値上げをする」という、飲食店における一般的な原価低減手法についてお話をして来ましたが、最後に一般的にはあまり知られていない原価低減手法についてお話をさせて頂きます。
ツイてる商品の投入で原価率を下げる方法
飲食店において「原価率が低い商品=儲かる商品」となる為、原価率が低い商品がたくさん売れればお店の原価率は下がっていきます。しかし、いくら原価率が低い商品でもお客様から人気の無い商品を販売していては、お客様満足度を下げる事になります。
そこでもう一つ考えるべきは「売上構成比が高い商品=人気が高い商品」です。そして私はこの2点を兼ね備えた商品を「ツイてる商品」と定義しています。
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原価率が低い商品=儲かる商品
売上構成比が高い商品=人気が高い商品
原価率が低く、なおかつ売上構成比が高い商品=ツイてる商品
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飲食店の原価率を低減させる為には、この「ツイてる商品」をメニューの中に戦略的に組み込んでいく事が重要です。
今回ご相談を頂いた和食店様においては、まずは現状分析を行う為に過去1年分の理論原価分析を徹底的行った上で、ツイてる商品を分析していきました。しかし、こちらの和食店様にはこれといって「ツイてる商品」が無かった為、当社で全国モデル店調査などを行った上で「ツイてる商品」をご提案させて頂きました。
最後的にはメニューブックのレイアウト構成の中で「ツイてる商品」の配置を戦略的に行い、デザイナーさんとの打合せを経てメニューリニューアルを進めていきました。
この和食店様では、本日お話をした「ロス対策」「価格弾力性を踏まえた値上げ」「QSC向上」「ツイてる商品投入」、この4つの戦略を並行して実施した事で結果的に売上を落とすこと無く2.5%の原価率低減につながりました。
こちらの和食店は月商700万円ですので、月間17.5万円、年間210万円の利益アップになります。
値上げや原価率低減は精神論では実現できません。
ぜひ皆さんのお店でも本日お話をした戦略を参考にして頂ければ幸いです。
本日も最後までお読み頂きありがとうございました。