コロナ禍でも売上高106.8%、営業利益144.9%、スシローのウィズ/アフターコロナ戦略
皆さんこんにちは、飲食店コンサルティング会社 株式会社ス リーウェルマネジメント代表コンサルタントの三ツ井創太郎です。
先日、大手回転寿司チェーン「スシロー」を展開するスシローグローバルホールディングス(HD)が、2021年9月期第1四半期(20年10~12月)の連結決算(国際会計基準)を発表しました。
キャンペーンを連発するスシロー(出所:リリース)
コロナ禍で多くの外食企業が苦戦を強いられています。一方、 同社の売上高は595億2900万円(前年同期比6.8%増)、営業利益は70億800万円(同44.9%増)で、好業績を維持しています。
一回目の緊急事態宣言が明けた20年6月~21年1月の業績を見ていくと、 新店舗も含めた全店売上高は対前年比で101.8%となっており、100%を割 り込んでいるのは20年8月だけです。さらにもう少し細かく数値を分析すると、客数は88.9%、客単価は108.6%で、客単価の上昇が業績に大きく寄与 していることが分かります。
コロナ禍という未曽有の状況の中で、今後の経営戦略をどう立案すべきか 悩んでいる経営者の方も多いかと思います。今回はスシローの取り組みを ケーススタディーとして、アフター&ウィズコロナにおける成長戦略の考え方を学んでいきたいと思います。
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コロナ禍における成長戦略とは
今年に入ってから、当社には「長引くコロナ禍の中で、今後の成長戦略を どう描いていくべきか分からない」といったご相談が多数寄せられています。
そこで、私が提唱している「ウィズ&アフターコロナの成長マトリクス」 という戦略策定ツールをご紹介します。これは、戦略的経営の父としても有 名な米国の経営学者イゴール・アンゾフが考案した「アンゾフのマトリク ス」を飲食店向けにアレンジしたものです。企業の成長戦略を整理する際に 活用できます。
飲食店の成長戦略を「業態と商圏」「既存と新規」という2軸で整理します。 そして、それぞれどのようなアプローチをしていくのかを「A:シェア拡大戦 略(既存業態×既存商圏)」「B:新業態開発戦略(新規業態×既存商圏)」 「C:新商圏出店戦略(既存業態×新規商圏)」「D:多角化戦略(新規業態 ×新規商圏)」というように4つの戦略に分けて整理します。
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A:シェア拡大戦略(既存業態×既存商圏)
「既存の業態」を「既存の商圏」で成長させていく戦略です。具体的には、 新規客やリピート客の獲得、客単価アップなどの戦略です。ここでコロナ禍 におけるスシローのシェア拡大戦略を分析します。
スシローのキャンペーン(出所:リリース)
スシローは以前から、戦略として「キャンペーン」に力を入れています。 そして、コロナ禍においても強力なキャンペーンが大きな集客につながっ ています。現在行っている寿司関連のキャンペーンをWebサイトで確認 すると、「超まぐろづくし(2月19日~28日)」「匠の一皿シリーズで 一番売れたメニューを一皿に(2月10日~2月28日)」「おいしさ満開 ひな祭り(2月25日~3月3日)」「天然インド鮪7貫食べ比べ(2月1日 ~)」といったように、4つものキャンペーンを展開しています(2月20 日現在)。
こうしたキャンペーンを次々と展開し、販売促進を行っていくことで既 存客のリピートのみならず、新規客の獲得にも成功しています。
販売促進と聞くと「割引」などをイメージする方も多いかもしれません。 しかし、スシローではキャンペーン商品のこだわりや付加価値をしっかり と打ち出すブランディング戦略を行っています。そして、今まで展開して いなかった480円という新価格帯においても顧客からの支持を得ていま す。20年に登場した「特大エビフライ」(税別480円)は、東海エリア 限定で販売していました。しかし、非常に好評だったため、全国で期間限 定販売を行い、想定の2倍以上の売り上げを記録しています。寿司カテゴ リーの商品のみならず、特大エビフライやデザートなど、顧客層が求める あらゆるニーズに対応するキャンペーンなどの取り組みが功を奏し、同社の客単価は20年12月から対前年比110%以上で推移しています。
次に「B戦略=新業態開発戦略(新規業態×既存商圏)」について見ていきます。
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B:新業態開発戦略(新規業態×既存商圏)
これは「新規の業態」を「既存の商圏」で展開していく戦略です。
1回目の緊急事態宣言下においては、閉店・営業時間の短縮などにより同社 の店内利用客数が大きく落ち込みました。しかし、テークアウト&デリバ リー部門の20年5月度における売上高は対前年比300%近くにまで飛躍しま した。「テークアウト&デリバリーは新業態では無いのでは?」と思われる 方も多いかもしれません。しかし、テークアウト&デリバリーは、品質維持 やマーケティング手法などの点で、通常の飲食店の店内営業とはノウハウが 大きく異なります。実際にテークアウト&デリバリーのノウハウを理解せず に参入して失敗する飲食店は少なくありません。
コロナ禍の中でも同社はトライ&エラーを繰り返し、ノウハウを蓄積して いきました。そして、19年9月には75店舗だったデリバリー対応店舗を、 20年9月には199店舗までに拡大させています。さらには、近隣のスシロー 店舗で調理した商品を配送するサテライト方式によるテークアウト専門店と いった実験も行っています。
次に「C戦略=新商圏出店戦略(既存業態×新規商圏)」について見ていきます。
C:新商圏出店戦略(既存業態×新規商圏)
これは「既存の業態」を「新規の商圏」で展開していく戦略です。
地方や郊外立地でその強さを発揮してきた同社ですが、最近では都市型 店舗の展開に積極的に力を入れています。筆者も実際にスシローの都市型 店舗を訪れてみました。
筆者が訪れたのは、都内にあるスシロー大森駅前店。駅前の一等地では ありますが、お店は2階に位置しています。また、店舗入口は1階にある ファミリーマートと隣接しており、あまり分かりやすい場所とはいえませ んでした。
しかし、階段を昇ると平日のランチピークを過ぎた時間でしたが、4組 ほどウェイティングのお客さまがいました。
筆者が訪れたスシローの都市型店舗
席数は73席で、郊外型スシロー店舗の半分以下ですが満席でした。都心 型店舗の店内に入って感じたのは「客層の幅の広さ」でした。学生、1人 でランチをとっているOL、昼からお酒を飲んでいる中年男性2人組、小さ な子どもを連れた母親、カップルなど、あらゆる客層のお客さまが来店していました。
同社はコロナの影響が残る中においても、21年9月までに6~8店舗の 都市型店舗を新規出店する計画を発表しています。
海外展開にも積極的
国内では都心型店舗を出店し、新しい商圏に対して成長戦略を描いてい る同社ですが、同時に海外スシロー事業の本格拡大に向けても着々と準備 を進めています。20年9月期における同社の決算説明会資料を確認してみ ると、コロナの影響を受けながらも台湾に11店舗を新規出店、計20店舗 を展開していることが分かります。香港はコロナ禍でもあまり売り上げが 落ちておらず、新規に4店舗を出店して5店舗体制としています。シンガ ポールにおいても3店舗の新規出店を行い、4店舗体制となっています(い ずれも20年11月時点)。今後は香港での成功ノウハウをベースに中国大 陸への進出も計画しています。
最後にD戦略=多角化戦略(新規業態×新規商圏)について見ていきます。
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D:多角化戦略(新規業態×新規商圏)
これは「新規の業態」を「新規の商圏」で展開していく戦略です。コロ ナ禍で大きな影響を受けている飲食店経営者の方からは、最近この多角化 戦略についてご相談をいただくケースが多くなりました。
しかし、多角化は既存の商圏(顧客)や既存の業態といった自社の強 み・ノウハウが活用できず、設備投資も発生するため、一般的には失敗す るリスクが格段に高くなります。私はこうしたリスクを回避した上で多角 化する手法として、「(1)フランチャイズ加盟」「(2)代理店加盟」 「(3)他社提携」「(4)M&A」という4つの方法を推奨しています。
それではスシローの多角化戦略を見ていきます。
同社は19年にファンドを通じて、英国・ロンドンを中心として寿司など のテークアウト型チェーンストアを展開する Wasabi Sushi Bento Limitedに出資をしています。両社は戦略的パートナーとして、欧州市場に おけるさらなる投資機会の検討や、将来的な世界展開に関する包括的な業 務提携を行っています。
当然ながらコロナ禍で英国市場も厳しい状況ですが、スシローグローバ ルHDは追加投資を行っています。
ここまでの話をまとめると、同社はコロナ禍においても、4つの成長戦 略をバランス良く展開していることが分かります。
長引くコロナ禍により先行きが不透明な時代ではあります。しかし、こ うした時だからこそ、改めて自社の強みをブラッシュアップした上で、未 来を見据えた戦略をしっかりと立てることが重要となります。
今回ご紹介した「ウィズ&アフターコロナの成長マトリクス」が皆さま の会社の成長戦略策定に少しでもお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。