コロナ禍でも絶好調「焼肉きんぐ」の商圏包み込み戦略
皆さんこんにちは、飲食店コンサルティング会社 株式会社スリーウェルマネジメント代表コンサルタントの三ツ井創太郎です。
外食企業の中でも、焼肉業態は比較的コロナ禍の影響が少ないといわれています。特に好調なのが、食べ放題焼肉として全国に246店舗を展開する「焼肉きんぐ」です(店舗数は2020年9月末時点)。
運営会社が12月16日に発表した11月度における焼肉部門の売上速報を確認すると、既存店売上高は前年対比123.3%と非常に好調です。
なぜ焼肉きんぐはコロナ禍でも好調なのか? 今回はその秘密に迫ります。
なお、今回のブログの詳細内容は下記より無料ダウンロード資料にてご覧頂けます。
焼肉きんぐを運営する物語コーポレーション
(画像出所:リリース)
焼肉きんぐを展開しているのは、東証一部上場企業である「物語コーポレーション」(愛知県豊橋市)。現在、同社では焼肉、ラーメン、お好み焼き、寿司・しゃぶしゃぶ、海外ブランドなど529店舗を展開しています(20年6月末時点)。年商は579億円ですが、焼肉業態の売上高は300億円と51.9%を占めています。
同社の歴史をさかのぼってみましょう。1949年、愛知県豊橋市におでん屋「酒房源氏」として創業しました。その後「しゃぶしゃぶ」「海鮮」などの業態展開を経て、95年に焼肉店1号店「焼肉一番カルビ」を開業します。1号店オープンから3年後の98年には「焼肉一番カルビ」のフランチャイズ(FC)1号店を出店。2007年には、石川県に「焼肉きんぐ」1号店を出店し、翌年にはジャスダック証券取引所に株式上場を果たします。
その後も順調に店舗を拡大し、12年には焼肉業態100店舗を達成します。同社の焼肉業態の内訳を見てみると、焼肉きんぐがほとんどを占めているのに気付くでしょう。
焼肉業態の内訳(2020年9月30日現在) 出所:公式資料を基に筆者作成
同社の焼肉業態は、全246店舗中39%がFC店舗となっています。FCモデルの成功も、成長をけん引しています。
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実際に焼肉きんぐを訪問
神奈川県のロードサイドにある店舗
今回は強さの秘密を探るべく、実際に筆者が神奈川県内のロードサイドにある焼肉きんぐの店舗を訪問しました。雨が降っていたため、すんなり入店できると思っていました。
しかし、お店に到着すると既に5組ものウェイティングのお客さまがいらっしゃいました。30分ほど待ってようやく入店できました。焼肉きんぐの食べ放題メニューは大きく3つに分かれます。
<焼肉きんぐの食べ放題プラン>
A:プレミアムコース3980円(税別、以下同)……約114品(エリアによって異なる)
B:きんぐコース2980円……約107品(同)
C:58品コース 2680円……58品
Aの「プレミアムコース」とBの「きんぐコース」の大きな違いは、「国産牛」と「特選」の有無。Cの「58品コース」のメニュー数は他メニューと比べて半分程度になっています。その分、2680円というリーズナブルな価格です。
ここで焼肉きんぐのメニュー構成を分析していきましょう。
焼肉きんぐのコース別メニュー数比較(※コース内容はエリア等によって異なる)
出所:公式資料を基に筆者作成
高単価のプレミアムコースには、国産牛や特選といったメニューがあり、「A:少しぜいたくなお肉を食べたい層」に対応しています。
中単価コースであるきんぐコースは、国産牛や特選が無い点を除けば、プレミアムコースとほぼ同じ内容です。さらにメニューカテゴリー別の構成比を分析してみましょう。焼肉きんぐが支持される理由の一つに、「カルビメニューの多さ」が挙げられます。カルビはどの焼肉店においても出数上位の人気カテゴリーです。
少々話は逸れますが、カルビと値段の関係について解説します。一般消費者が焼肉店を訪問した際、最初に確認するのは「カルビの値段」。カルビの値段でそのお店の予算感を察するのです。
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焼肉におけるカルビの重要性
例えば、並カルビの値段が680円のお店と1280円のお店では、受ける印象が異なります。当社のコンサルタントが全国500店舗以上の焼肉店を来店調査した結果、面白いデータを発見しました。それは大抵の焼肉店は「カルビ価格×5.5=想定客単価」になるというルールです。当社ではこの「5.5」という数値を「カルビ客単価指数」と呼んでいます。
カルビ(90グラム換算)が700円程度のお店でしたら、そのお店の客単価は700円×5.5=3850円程度。1800円の黒毛和牛カルビを提供している焼肉店の客単価は9900円程度となります。かつて、焼肉業態の客単価は「カルビ価格×5」程度でした。
しかし、近年ではカルビの値段を低めに設定して、他メニューやアルコールを高めに提供する店舗が増えました(すでにカルビ価格が頭打ちという現状もあります)。そのため、カルビ客単価指数が「5.5」と高めになる傾向が出てきています。
このカルビ客単価指数が「7」を超えるとどうなるでしょうか。消費者は、カルビの価格に対して、最終的な会計金額が想定していたよりも高いと感じます。この現象を私は「カルビ価格不協和」と呼んでいます。
話を元に戻しますが、それだけ消費者は日頃から潜在的に「カルビの値段」を意識して焼肉店を訪問しています。そのため、食べ放題焼肉業態においてもカルビメニューは差別化の重要な要素になります。
焼肉きんぐでは、カルビカテゴリーに味付けやカットを変えた8アイテムものメニューを用意して「B:焼肉(カルビ)をお腹いっぱい食べたい客層」のニーズに対応しています。
さらに、一品・おつまみ系メニューに10アイテムを配置することで「C:家族で来店したけどお酒を飲みたい『お父さん』(からあげなどは、子どもが好きなメニューでもあります)」に対応。また、ごはん・麺・スープに20アイテムを配置することで「D: しっかりと食事をしたい客層」のニーズも満たしています。
つまり「A:ぜいたくニーズ」「B:焼肉お腹いっぱいニーズ」「C:お父さんの飲みニーズ」「D:食事ニーズ」に幅広く対応することで、来店動機を高め、商圏内のシェアを高めているのです。私はこうした戦略を「包み込み戦略」と呼んでいます。カテゴリーの幅と、アイテム数を設計していくことで、競合店などの差別化要素を包み込んでいく戦略です。
シェア理論から焼肉きんぐの強さを分析する
業態マーケットシェア率出所:公式資料を基に筆者作成
ここで「業態マーケットシェア理論」について説明します。この理論は、当社のコンサルタントがご支援先の新店舗の売上予測や立地診断等にも活用しています。
<業態マーケットシェア理論の考え方>
店舗年商(焼肉A店年商1億円)÷商圏内の特定業態の総売上(焼肉業態の総売上10億円)=業態マーケットシェア率(焼肉A店のシェア率10%)
さらに分かりやすいように、今回私が訪れた神奈川県の焼肉きんぐの店舗を例にとって説明します。
<商圏人口を調べる>
まずは、焼肉店の商圏人口を調べましょう。エリアや競合店の状況にもよりますが、郊外店の場合は既存顧客の80%が住んでいる近隣地域となります。今回訪問した焼肉きんぐの商圏人口(夜間人口)は約18万人です。
<商圏内の焼肉店の総売上を算出する>
商圏内の焼肉店の総売上を算出する上では「業態マーケットサイズ」という考え方を活用します。これは特定業態(焼肉業態)の国内市場における総売上を、日本の総人口で割って算出します。
〈マーケットサイズを算出する〉
焼肉業態における国内市場の総売上「5550億円」(18年度)÷日本の総人口「1億2427万1318人」=業態マーケットサイズ「4466円」
つまり、日本国内に住む人は平均して1年間に焼肉屋さんで4466円を使っている計算になります。
今回の焼肉きんぐのお店の商圏人口は18万人でしたので、そこに当てはめて考えてみます。
〈商圏内のマーケットサイズを算出する〉
商圏内の焼肉店の総売上=焼肉業態のマーケットサイズ4466円×商圏人口18万人=約8億円
つまり、この商圏内には年間約8億円の焼肉マーケットがあり、商圏内の焼肉店で奪い合っていることになります。
〈焼肉きんぐの業態マーケットシェア率を算出する〉
次に、商圏内における競合焼肉店の店舗数を数えていきます。この商圏内の焼肉店の数は13店舗でした。単純に年間8億円の焼肉マーケットを13店舗で分け合っている場合は、1店舗の年商は8億円÷13店舗=6200万円となります。
包み込み戦略は誰でもできることではない
この26%というシェア率は、シェア理論においては「一番店シェア」となります。商圏内において、同社が一番店として繁盛していることを示しています(シェア理論についてはまた別の機会に詳しく解説)。
焼肉きんぐはメニュー開発力により、「A:ぜいたくニーズ」「B:焼肉お腹いっぱいニーズ」「C:お父さんの飲みニーズ」「D:食事ニーズ」というさまざまな客層を獲得する包み込み戦略によって、商圏内で圧倒的なシェアを獲得できています。
こうした包み込み戦略は、オペレーション面で店舗負荷も大きいため、全ての企業が行えるわけではありません。同社の長年の企業努力があるからこそ、できることでしょう。
今回の調査店舗の商圏人口は18万人でしたが、物語コーポレーションの決算説明資料によると、今後は10万人未満商圏への積極的出店を行うそうです。
最後までお読み頂きありがとうございました。
少しでも飲食店経営者の皆様のご参考になれば幸いです。