「称賛される会社を目指して——揚州商人・三好社長が語る“人の力”と理念経営」
揚州商人・ホイッスル三好社長が語る、創業者から受け継がれる理念教育と、称賛される会社「アドマイヤードカンパニー」への道
インタビュアー 三ツ井創太郎(株式会社スリーウェルマネジメント)
中国の街並みを再現した独自の世界観、そして130種類を超える多彩なメニュー。
関東圏を中心に38店舗を展開するラーメンチェーン「揚州商人」は、どの店舗に入っても少し特別な“非日常”を感じる。その背景には、創業から受け継がれる理念と、「お客様にとって良いことをやる」という、ブレない信念があった。
厳しいコロナ禍を乗り越え、創業以来最高益を記録した株式会社ホイッスル三好の代表取締役 三好一太朗氏に、揚州商人を支える理念と、未来を見据えた10年構想について聞いた。
ルーツは曽祖父の代から。異色の家業が生んだ“揚州商人”
(株式会社ホイッスル三好 代表取締役 三好一太朗氏)
三好社長は、株式会社ホイッスル三好の経営者としては2代目にあたる。
そのルーツは、曽祖父が中国・揚州から日本へ渡ってきたところまでさかのぼるという。
「私の曽祖父が中国の揚州から日本に渡ってきて、そこから数えると4代目になります。曽祖父は、もともとは床屋だったそうです。このような形になったのは父の時で、会社としての創業は1988年になります。」
揚州商人は現在、首都圏を中心に38店舗を展開。ラーメン店としては異例の130種類以上のメニューもさることながら、中国の街並みを模した内外装から “本場”へのこだわりが感じられる。だが当初は、今のような内外装ではなく、途中から大きくコンセプトを刷新したのだという。
「目黒店の創業店から5店舗目くらいまでは、今のような内装ではありませんでした。途中から創業者の父が、新しいコンセプトでお店を作るタイミングで、中国をそのまま移築したような内外装になりました。エンターテインメント性も重視し、商品以外にもお客様にお喜びいただける、楽しんでいただける要素を持ってこようという考えから、今の形になりました。」
(中国の街並みを再現したコンセプト)
「商品とサービスこそ、すべての基軸」——“ハートフルホーム”という考え方
三好社長が繰り返し語るのは、「お客様にとっての価値」だ。
自宅に招いた大切な人が「また来たい」と思ってくれるような場所=「ハートフルホーム」というコンセプトを大切にしているという。こうしたコンセプトや思いを各店舗に浸透させるべく、同社ではクレドブックを活用している。
「私たちも飲食店を運営する上でいろいろな施策を展開していますが、最初も最後も、お客様に評価していただけるのは“商品とサービス”だと思っています。そういった我々のお店のコンセプトであったり、お客様にどういう価値を提供するのかという点を一冊のクレドブックにまとめて、理想のお店を実現するための重要なツールとして使っています。」
また、全店舗で実施しているお客様アンケートも、経営に欠かせない指標のひとつだ。
「アンケートは我々の店舗の現状を測る上での、いわゆるKPI(重要業績評価指標)としても使用しております。アンケートの結果が良くてもすぐに売上が上がるわけではありませんが、良い状態を続けて初めて評判が上がっていく。逆に、お叱りの声が増えると“お店が危ないぞ”というサインにもなるんです。アンケートの結果は必ず業績とイコールで結ばれるわけではありませんが、間違いなく言えるのは、お客様の良い評判が増えていかないことには、店舗の業績は上がらないという点です。」
「やはりお店がいいかどうかを評価するのはお客様です。お褒めの声も、お叱りの声も、我々のすべての基軸として考えています。」
お客様アンケートを「すべての基軸」と表現する三好社長は、店舗から届く全てのアンケートに目を通しているという。
経営の源流は“理念教育”にあり。原点は自己啓発プログラム
そのような「お客様にとっての価値」を追求する、揚州商人の理念教育への強いこだわりは、先代である父・三好前社長の意外な経歴にルーツがあるという。
「父が元々やっていたのは飲食業ではなく、自己啓発プログラムの営業販売なんです。そこには“人生成功の鍵はモチベーション”という考え方がありました。父はその考えを実業で証明したいと考え、自分の血筋やそのストーリーも含めて、飲食店をやろうという点で、この会社を始めた経緯があります。」
以来、社員やアルバイトにもモチベーションを問い続ける文化が根づいた。
「モチベーションがあるかどうかで、1つの仕事も成功するかどうかが決まる。そういった考えから、“モチベーションとはそもそも何なのか”という点を、父が社員やバイトを集めて、創業からずっと教え説いてきました。今でも、“結局、あなたにとっての目的地はどこなんだ”という点と、その中で“あなたのモチベーションは十分に湧いていますか”という点を、先代からの文化として、会社の中で大切にしながら経営を行っています。」
稲盛和夫氏の教えが「揚州商人」を形づくった
(揚州商品の一番人気メニュー「スーラータンメン」)
ホイッスル三好の経営理念には、京セラ創業者・稲盛和夫氏の影響も深く刻まれている。
「父が稲盛先生の盛和塾に入っておりまして、その中での学びが経営に活かされている面があります。かつて、揚州商人をつくる前の業態のラーメン店に稲盛先生が来られたことがあり、その時に“お店は元気がよく、清潔だが、肝心のラーメンが美味しくない!もっと美味いラーメンが作れる”と言われたことがあったらしいんです。」
その一言が、今の「揚州商人」誕生のきっかけとなった。
「その言葉を良い意味で真に受けた父は“そうか、美味しいラーメンを作ればいいんだ”と考え、以前から頭の中で温めていた揚州商人の今の形、実質的な新業態を立ち上げました。結果的に、それが今のブランドの原点になったんです。」
さらに稲盛氏から受けたもう一つの教えが、今でも経営判断の根幹にある。
「稲盛先生は“労多くして益少なき仕事をしなさい”とよくおっしゃったんです。父はその言葉を聞いて、“いやでも先生、労多くして益少ないっていうことって逆じゃないですか”とお伺いしたところ、稲盛先生は“そういった仕事はみんなやりたがるだろう。そういった仕事はすぐダメになるんだ”と。父はこの考え方こそが王道だと考え、いろんな経営の価値判断の判断材料や基準、すべての元にしてきたんです。」
その哲学は今も息づいている。
「ですから、我々のお店のメニューが多いのもそこから来ているとも言えるんですね。うちはメニューが多い分、仕込みやオペレーションも本当に大変です。ただ我々には“お客様にとって良いことをやり続けてきたから、今があるんだ”という強い思いもあります。もちろん、効率化していくとか、自分たちのやりやすいようにしていくというのはあれど、お客様にとっての価値を生むというのは、我々がいかに労多くするか、手間暇かけるかというところにあると考えています。」
地獄の日々”からの再起。社員を信じ抜いたコロナ禍の決断
コロナ禍で、多くの外食企業が営業制限に苦しんだ。
深夜4時30分まで営業していた揚州商人も、午後8時閉店を余儀なくされた。
だがその最中、ホイッスル三好は「給与を下げない」「採用を止めない」という決断を下した。
「言ってしまえば地獄のような日々でした。週単位で1,000万円単位の赤字を計上していました。それでも、社員、アルバイトの給与は下げませんでした。一部の管理職には、経営が危ない状況だという点を体感してもらうために賞与を一部カットしたこともありましたが、全体としては満額支給。それが結果的に、離職を防ぐことにつながりました。休業に入られていたアルバイトの皆さんも心を一つにしてくださって、コロナが明けたらすぐお店の再開に貢献しようという状況になってもらえたんです。」
驚くべきことに、三好社長はその最中にも新規採用を続けていたという。
「銀行さんには“なんで採用してるんだ”と怒られました(笑)。でも私は、コロナ禍で、失業される方や離職する方が増え、採用市場に人が流れ込むという点は、残念ながら間違いないと考えていました。その時に、“必ずこの状況だからこそ、その中にまさに優秀な方や、うちの会社の未来を背負ってくれるような人材に会えるはずだ”というように、銀行さんをなんとか説得しました。結果的には2年間で20人以上の正社員を採用しました。」
2022年7月、同社は単月黒字化を達成。2024年2月期には創業以来最高益を記録した。最悪の時期を経て掴んだ、確かな“人の力”による復活だった。
(ホイッスル三好のホームページ公開されている給与モデル)
「10年構想」は羅針盤。すべては週単位のマネジメントから
この成長を下支えするのが、2024年に発表された「10年構想」だ。
2034年までに掲げるのは、100店舗体制の実現、実質無借金経営、そして「アドマイヤードカンパニー」の完成。※アドマイヤードカンパニーについては後述
その道のりは、35〜37期に“関東ナンバーワン中華チェーン”、38〜40期に“未知の領域への突入”、41〜43期に“創業目標100店舗”と段階的に描かれている。
「10年構想を羅針盤にしながら、単年計画に毎年取り組んでいます。定性的な取り組みも、数値的な目標値もすべて設定して、週ごとに進捗を管理しています。」
社内ではウィークリー・マンスリー・デイリーの3軸でマネジメントが行われ、目標達成率を常に可視化している。
「100%達成できた年はないというのが正直なところです。ただ、これを描かずして、どうやって経営をするのかという怖さもあります。私はかなり多くのことを父から学ばせてもらいましたが、やはりウィークリーマネジメントが大事だという点は、現役の時に父がずっと訴えていました。それを叩き込まれて、数字にしても、進捗管理にしても、基本であるウィークリーを絶対に持っていくんだという点を言われてきました。その点は特に父に感謝しています。」
この仕組みが、ホイッスル三好の経営に確かなリズムと方向性を与えている。
「アドマイヤードカンパニー」——“称賛される会社”を目指して
ホイッスル三好が掲げる10年構想の中心にあるのが、「アドマイヤードカンパニー」というビジョンだ。
三好社長は、その言葉に特別な思いを込めている。
「渥美俊一先生の著書に触れることがありまして、その中に、中小企業の役割について書かれていたところがあったんです。例えば、大企業というのはたくさん利益を出して、たくさん納税して、国力事業体であるべきなんだと。そういう国全体に良い影響を与えるような大企業を“エクセレントカンパニー”と呼ぶ。それに対して、そういった大企業に人材を送れるだけの人を育てる、そして、その人を輩出して世の中に称賛されるような会社になっていくのが中小企業の役割であり、それを“アドマイヤードカンパニー”と呼ぶと。私は、この言葉を聞いて衝撃を受けました。“アドマイヤー”という単語には“称賛する”という意味があります。ですから“アドマイヤードカンパニー”とは、“称賛される会社であれ”という点。お客様からも、働く仲間からも、そして世の中からも、強く必要とされる会社、人間、組織でありたいという思いを込めて当社でも“アドマイヤードカンパニーになる!”というビジョンを掲げています。」
この理念は、創業者である父の思いにも繋がっている。
「当社も創業36年の中で、さまざまな方が働かれてきました。当社を巣立った方の中には、実家の稼業に戻って、代表になられた方もいらっしゃいますし、事業でたくさんの成功を収めた方もいらっしゃいます。当社は先代の父が自己啓発の営業販売から創業したという事は先ほどお話させて頂きましたが、飲食業をスタートしたのも“この会社を通じてたくさんの成功者を出したい”という先代の強い思いからです。これからも同じように、仕事の成功という点だけではなく、人生でいろいろな意味での富を得る成功者をたくさん排出していきたいと思っています。これは正に我々が掲げる“アドマイヤードカンパニー”に通じる思いなのです。今後はこの想いを社外にも広げていくべく、我々の考えに共感してくださる方と揚州商人のフランチャイズ展開もスタートしていきたいと思っています。」
“お客様・社員・社会”の三方向から称賛される企業を目指す——。
「アドマイヤードカンパニー」それは、単なるスローガンではなく、創業の理念から脈々と受け継がれるホイッスル三好の原点だ。
労を惜しまず、心を尽くすこと。
その積み重ねが、「揚州商人」という唯一無二のブランドを形づくっている。
インタビュアー 三ツ井創太郎
編集 金山悠吾