コロナ禍でも前年対比110%!「かつや」から学ぶウィズコロナの経営戦略~ダウンロード資料~
皆さんこんにちは、飲食店コンサルティング会社 株式会社スリーウェルマネジメント代表コンサルタントの三ツ井創太郎です。
「Go To Eatキャンペーン」なども始まり、売上回復が望まれる飲食業界ですが、現状ではまだまだ本格的な回復には程遠い状況が続いています。上場外食企業各社の業績報告を見ても、かなり厳しい業績が目立ちます。
しかしながらこうした厳しい市場環境にありながらも2020年1月から9月までの売上が前年対比110%超えという驚異の業績を実現している外食企業がある事を皆さんはご存知でしょうか?
今回はコロナ禍においても好調な外食企業の取り組みを学んでいきます。
なお、今回のブログの詳細内容は下記より無料ダウンロード資料にてご覧頂けます。
コロナ禍でも前年対比111.6%のアークランドサービスホールディングス
今回ご紹介するのは、揚げたてのかつ定食やかつ丼を低価格で食べられるお店「かつや」。全国にある「とんかつ専門店」の多くが客単価1,000円を超える中で「かつや」は700円代でかつ定食を食べる事ができるお店として全国に展開しています。
その人気はコロナ禍でも衰える事は無く、テイクアウト売上の伸長等もあり好業績をキープしています。
ここで「かつや」を展開するアークランドサービスホールディングス株式会社の今年1月からの売上推移を見ていきます。
前年対比で100%を下回っているのは4月度の93.3%のみで、それ以外の月は全て前年を上回っています。「かつや」の既存店だけを見ていくと1月から9月累計で前年対比99.3%ですが、これはコロナ禍で多くの外食企業が前年対比60%~70%という状況の中で驚異的な実績となっています。
数値を細かく見ていくと「かつや」の既存店客数は前年対比91%ですが、テイクアウト売上等の好調により、客単価が109.2%と伸びた事で売上の嵩上げに成功しています。
アークランドサービスホールディングスのビジネスモデル
次にコロナ禍においても好業績を実現している同社の事業戦略ついて分析をしていきます。同社は「かつや」以外にも「唐揚げ専門店」等も展開しています。
「かつや」は国内409店舗、海外58店舗で合計467店舗、からあげ専門店の「からやま」「縁」は合計で国内122店舗、海外9店舗で合計131店舗を展開しています。そして今年3月にはタイ料理専門店「マンゴツリー」やシーフードレストラン「ダンシングクラブ」等、37店舗を展開している株式会社ミールワークスの株式を取得し子会社化しています。
今まで同社はとんかつ専門店、からあげ専門店といった労働者世代の男性層をメインターゲットとする業態を中心に展開していましたが、株式会社ミールワークスのM&Aにより女性客層をターゲットとした領域にも事業展開を行っていく事が可能になりました。
さらに5月にはスーパーや飲食店向けのとんかつやハンバーグ等の冷凍食品製造、販売を行っているコスミックダイニング株式会社の株式も取得する事で冷凍食品事業へ進出すると同時に新たな冷凍技術等を活用し、シニア層をターゲットとした天ぷら業態「江戸前天丼はま田」や、こだわりのとんかつを展開する「とんかつはま田」等の新業態の展開を開始しています。
何よりも驚きなのは、同社がこうしたM&Aをコロナ禍真っ只中の3月と5月に行っている点です。当然、以前から準備を進めていたと思いますが、冷凍食品事業を初めウィズコロナに向けた事業モデル変革を5月までに次々と実行していくスピード感には驚かされます。
様々な事業領域に展開を開始している同社ですが、現状ではグループ売上の67.8%は「かつや」業態となっています。次は同社の強い事業基盤となっている「かつや」のビジネスモデルについて見ていきます。
国内409店舗を展開する「かつや」のビジネスモデル
コロナ禍でもほぼ前年同等の売上をキープしている「かつや」業態。その強さを探るべく筆者も改めて店舗を訪れてみました。
私が訪れたのは東京都町田市の郊外にあるお店。「かつや」は全店舗の約90%が郊外にあります。この為、繁華街やビジネス街に展開する飲食企業と違いコロナ禍の影響を最小限にとどめる事ができました。
さらに同店の駐車場にはテイクアウト等を訴求する「のぼり」が多数立っており、配達用のバイクも準備されていました。
実際にコロナ禍の中で「かつや」ではテイクアウトにかなり力を入れており、テレビCMや新聞広告、折り込みチラシ等を活用して認知度アップを図ると同時にデリバリー実施店舗を176店舗にまで拡大する事で今年1月には33.9%程度であったテイクアウト比率を5月には59.5%にまで引き上げる事に成功しています。こうしたテイクアウト強化戦略により「かつや」の5月度実績においては、客数前年対比78.2%という中で客単価前年対比124.9%となり、売上は前年対比97.7%を実現しています。
私がお店を訪れたのは14時でしたのランチのピークタイムを過ぎていましたが、店内は満席でウェイティングのお客様が10名程度待っている状況でした。私も店内で順番を待っていましたが、その間にもテイクアウトやデリバリーのオーダーが次々に入ってきます。このように店内が満席でも売上を作る事ができるのがテイクアウト/デリバリー店舗の強みです。
一方で店内とテイクアウト&デリバリーという複数のオーダーをこなしていく為には高い調理オペレーション力が必要となりますが、同社ではほぼアルバイトスタッフのみで調理を行っています。このオペレーションを実現しているのが「かつや」特注のオートフライヤーです。このオートフライヤーは改良を積み重ね、当初は4分近くかかっていた揚げ時間を現在では2分台にまで短縮する事に成功しています。この特注オートフライヤーにより本来は高い技術が必要なとんかつを揚げる工程の「職人レス」に成功しました。
<かつやのメニュー>
さっそく店内のメニューを見てみます。まず感じるのはその「安さ」です。一般的なとんかつ専門店の価格帯は1,200円~1,500円程度であるのに対して、「かつや」では最下限価格としては「カツ丼(梅)」490円から提供しており、メインカテゴリーとなるとんかつ定食も650円~790円の価格帯におさめています。アンケート調査では実際に同店を利用しているお客様の79%の人が「かつや」のメニューに関して「安い」と答えています。
高いオペレーション能力と安さ、商品力を武器に467店舗を展開する「かつや」ですが、まだまだ成長性はあるのでしょうか?次章で筆者が「かつや」の今後の成長性について分析していきます。
「かつや」の今後の事業成長について分析する
「かつや」の今後の事業成長性を考える上では、まず初めにとんかつ・かつ丼の市場規模全体を見ていく必要があります。2019年度のとんかつ・かつ丼の日本国内の市場規模は670億円程度と推定されます。
とんかつ・かつ丼市場は「かつや」が先に述べたオートフライヤーを使って全国展開を始めた事から、他企業の参入も進み近年市場規模が拡大してきました。
ここで市場規模を捉える上での一つの指標をご紹介します。それは「マーケットサイズ」という考え方です。これはその業界の市場規模(総売上)を日本の総人口で割る事で求められる指数であり、当社がコンサルティングご支援先企業様の店舗展開シミュレーション等を行う際にも使用する指数です。
とんかつ・かつ丼の市場規模は670億円ですので、これを日本の総人口で割ると、国民一人当り1年間でとんかつ・かつ丼に527円を使っている事になります。つまり、とんかつ・かつ丼のマーケットサイズは527円という事になります。
このマーケットサイズ527円に商圏人口をかける事で、その商圏内におけるとんかつ・かつ丼の市場規模を算出する事ができます。さらにその商圏内の「かつや」の年商規模を算出する事で、商圏内における「かつや」のシェア率(市場占有率)を導き出す事ができます。
実際のコンサルティング現場ではこの数値にさらに商圏特性や人口特性等、様々な変数も加味していきますが、ここでは分かりやすく「マーケットサイズ×商圏人口=商圏内市場規模」「店舗年商÷市場規模=シェア率」という方程式で説明していきます。
なお算出に当り「かつや」の1店舗月商は同社のフランチャイズ募集ホームページ等を参考に800万円、年商9,600万円と仮定しました。(2017年上半期は1店舗月商平均820万円)
「かつや」のとんかつ・かつ丼市場におけるシェア率を算出すると、全国合計で60%近いシェアを獲得している事になります。これはシェア理論においては圧倒的な優位性を誇るシェア率となります。
しかし、地域別に見ていくと100億円程度の市場規模が見込める関西エリア等ではまだシェア率が40%程度、九州エリアは24%程度となっております。チェーン店の全国展開においては、フランチャイジーの加盟や物件開発、生産体制、物流体制など市場規模だけでは決定できない要素が多いのが実情ですが、定量データをみる限りでは、まだまだ店舗数を拡大する事が可能であると言えます。
さらにとんかつ・かつ丼業態のマーケットサイズは現状は527円程度ですが、牛丼チェーンのマーケットサイズ3,200円の1/6程度となっており、とんかつ・かつ丼業態全体の市場規模自体もまだまだ成長の可能性が高いとも考えられます。
コロナ禍のM&Aで新たな事業基盤も取り入れた同社の成長戦略に今後も注目していきたいと思います。
本記事が少しでも皆様のご参考になれば幸いです。
最後までお読み頂きありがとうございます。